【マルコ×遊女】


慌ただしい夜だった
何故かいつもより早い時間から支度をさせられた

「今日は何かあるの?」

まだ少しぼうとする
忙しくする禿を1人捕まえ問うと
今日は大きな海賊団が来るんです!と嬉々としていた

海賊という言葉に眉を寄せる

「わっちは今日は仕事に出ないと楼主さまに伝えて。」

海賊は嫌いだ
ここに入れられた原因だった
目の前で両親を殺され
6歳の頃に連れてこられ
ワノ国の娼館をモチーフにしているここでのし上がった
今はもう客を選べる立場にいる
廓言葉というものにもとうに慣れてしまった

「わわ!だめですよ!
今日だけはアラタさんも出ないと」

「海賊は嫌いだと言ってるもの。
わっちは海賊の客はとりんせん 。」

綺麗に結い上げた髪の毛を
ぐしゃぐしゃにしてしまおうとした時に
楼主が慌てた様子で部屋に入ってくると
禿はホットした顔をして部屋からでていく

「アラタ、お前が夜見世なんかに出たくないのは分かるけど
今日の一行は特別なんだよ。」

猫なで声を出してくる楼主に嫌悪しながらも
楼主の手の甲に頬をすり寄せる

「海賊団は嫌いって言ってるでありんしょう ?
お願いしんす 。」

泣きそうな声で上目遣いで見上げると
楼主はうっと言葉をつまらしたが
いいよとは言わなかった

「アラタ・・・。悪いけど今日は出てくれ。」

そんなに上客なのかと内心舌打ちをする
それを表面に出さないように
さも貴方のためだと言うように
目には涙を溜める

「・・・わかりんした 。楼主さまのためでありんす。
嫌な客ならすぐに追い出しんすよ。」

「あぁ。
本当は客にも出したくないぐらいだ。」

顔が近づいてきて唇を吸われる
最近この若い楼主に代わったのだ
店のものは雑用係と扱っていたが
前楼主の息子だと気が付いていた
裏も表もみたこの男は売上を何倍にもし
やり手だと言われている
優遇されればと丁寧に接していたのだが
いらない恋心をも育ててしまったらしい

この鳥籠から出られない身分としては
受け入れるしかなかった
この店の全てが嫌いだった

「楼主さま、人が来てしまいんす 。
もう行ってくんなまし 。」

「・・・名前をよんではくれないのか?」

「名前を呼ぶのはまた二人きりの時に。」

そう言って胸に顔を埋めると
名残惜しそうにもう1度唇を重ねでていった

出いくのを見送りすぐにタオルで口を拭う

楼主も客も大嫌いだ
それを平気な顔で相手をする自分はもっと嫌い


素早く用意をして夜見世へと出ると
お店の女の子達はもう座っていた

「アラタちゃん、今日も綺麗でありんすね。」

「馬鹿ぇ。 勝てるわけありんせん 。」

口々に褒め称えてくる
皆、自分が一番だと思っているくせに

「そんな事はないわ。皆のが綺麗で羨ましいもの。」

にこりと微笑みを浮かべ悪意を受け流すこれが処世術だ

普段は夜見世に出る前に客が予約を入れてくれるので
この場所は久しぶりだった
まるで鳥籠の中にいるようでここの景色は好きじゃない

ザワザワと女達が色めき立つ

「うぉ!綺麗な姉ちゃん達だな!」

「本当だ!ね!イゾウ!
ワノ国をモチーフにしてみたいだけどどう?」

「・・・いいんじゃないか」

「ハハっ!イゾウはムッツリだからな。
オレは飯でも食ってくるぜ?」

リーゼント頭の男に、王子のような服を着た青年、
着物を着た男、ソバカスだらけの青年

(あぁ、嫌だ)

下品な奴はこちらから願い下げだ
持っといた扇子で顔を隠そうとした時
1人の男と目が合ってしまう

思わず持っていた扇子を落としかけた
見つめあった数秒が長く感じられた

「おい、マルコ!何ぼーっとしてんだよ!」

バシッとソバカスの青年が頭を叩く

あぁ、マルコという名前なのか

「おれはここに入るよい」

「はぁ?!飯くいに行くんだろ?!」

「え、マルコが?」

「なら、俺もここにする!
待ってよ!」

連れの4人は少し驚いた顔をしている

女達は自分ではないかとヒソヒソと話している

「アラタ、お客だよ」

と声がかかると皆やっぱりと落胆する


急いでいるのを気が付かれないように
ゆっくりと立ち上がり楼主の手を借りて
夜見世の部屋から出ると楼主は手を強く握る

「俺は本当にお前に客をとらせるのは嫌だ」

「何を馬鹿な事を言ってんでありんすか ?
わっちは遊女、貴方は楼主。
頑張ってこいよと送り出してくんなまし 。」

早く座敷へ行きたいと気持ちがはやり
楼主の顔さえ目に入らなかった

「この子がこの店の一番の売れっ子です。
優しくしてやってください。」

「アラタでありんすぇ。 今夜はよろしく お願い致しんす 。」

楼主が座敷を去ると膝をつき深く頭を下げる

普段なら絶対にしないのにこの人には
気に入られたいという気持ちがわく

大きな手が伸びてきたと思えば
いきなり激しいキスをされる

こんな無礼な者など許せないはずなのに応えてしまった


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