今年は肌寒い日が続いたせいか、3月になっても桜が咲くことはなかった。

毎年卒業式の頃には咲いてたんだけどなあ。桜が咲いてる頃には私はもうこの学校の生徒じゃないんだ。
同じくらいの丈まで伸びて立ち並ぶ木々に芽吹いた小さな蕾を教室の窓からぼんやりと眺め、一人そんなことを思っていた。


「…楽しかったなあ、」


式も涙ながらの最後のホームルームもあっという間に終わってしまった。皆と写真も撮ったし後は帰るだけなのだが、この学校で過ごした3年間の思い出に浸っている私はなかなか自分の席を動けずにいた。下校時間はとっくに過ぎ、おそらくもう誰も残っていないというのに。

本当に色んなことがあった。
どの行事を思い出しても、我がクラス3Zだけがずば抜けてズレていた。そんな場所で居心地が良いと思う私もズレているだろうけど。それでも、皆と過ごした日々は本当に楽しかったよ。


「ふっ、う…」

「何、また泣いてんのなまえちゃん?おめーは今日どんだけ泣けば気済むんだコノヤロー」

「あれ銀、ちゃ…だって…」


ふと後ろから聞こえた声に驚きそちらを見れば、担任の銀八先生がいた。呆れたように笑って頭を撫でてくれる先生。口では面倒くさそうにしてたけど、私達一人一人の将来をちゃんと考えてくれてたよね。優しくて大好き。


「だってもクソもないの。おめでてー日にそんな顔して…ったく最後まで世話の焼ける生徒だこと」

「ご、ごべんなざ…ひっく」

「ほら鼻かむ。俺はな、毎日毎日おめーらの面倒見て残業までしてよォ、何でこんな面倒くせー職を選んだんだって何度思ったか」

「…」

「立派に成長して巣立ってくお前らを見て俺は思ったね、あーやっと解放されたって」


にこにこと笑い言葉を紡ぐ先生を見て、薄情者とでも言ってやろうかと睨んだけどやめた。

遠くを眺め夕日に照らされた先生の表情が、なんだか悲しそうに見えたから。


「銀ちゃん」

「あ?」


こっちを見た先生と視線がぶつかる。少し開いた窓からそよそよと風が吹き、お互いの髪を揺らした。暫し流れる沈黙。



「今まで、ありがとね」



面と向かってお礼なんて言ったことなくて、すごく恥ずかしくなって、机の横にかけてあった鞄を持って逃げるように走る。
ちらっと見えた先生の顔は豆鉄砲をくらったみたいに驚いていた。相変わらず面白いなあ、銀ちゃん。

廊下を駆ける私の顔はさっきまでとは違い自然と笑えていた。





「卒業おめっとさん」



教室を出る際、後ろ手に先生がそう言ってくれたような気がしたから。

今までお世話になりました。
私は、いつまでもいつまでもこの学校とクラスの皆と先生が大好きです。




さようならよりありがとうを


(また会える気がするから別れの言葉は言わないでおくね、銀ちゃん)


すべての卒業生に捧げます
ご卒業おめでとうございます!

11.0318





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