ステンドグラスが白いレースに薄い色の光を落とす。なんて、なんて素晴らしい 完璧な時間なんだろう。わたしの隣には大切な彼がいて、神様の名の下、わたしはやっと彼を手に入れた。





「結婚したい」

そう言い出したのはわたしのほうだった。銀ちゃんの彼女になって七年、一緒に暮らすようになってからは五年。今更にも聞こえるわたしの気まぐれに、こちらを向いた銀ちゃんはきょとんとした表情だった。

一緒に暮らして、一緒にご飯を食べて、隣で眠って、時々おでかけして。わたしたちの生活にお互いはちゃんと溶け込んでいて、「結婚」という言葉にこれ以上の意味があるのかと問われれば答えは思いつかなかった。

そもそも面倒な手続きはふたりとも苦手だし、そんなのより一緒にいる事実のほうがもっとずっと大切だと、わたしたちはふたりともわかっていた。

「なに、急にどーしたの」

だから銀ちゃんが戸惑うのも無理はなかった。珍しくジャンプを置いて、わたしをひざにのせて 髪を撫でてくれた。

わたしは銀ちゃんの首に手を回して、首筋に顔をうずめる。抱きしめ合えば銀ちゃんの匂いがわたしに溶け込んで、わたしたちの境界線があいまいになっていくような感じがした。





「銀ちゃんが足りないの」

どれだけ一緒にいても、キスをしても、抱きしめたって、銀ちゃんは銀ちゃんでわたしはわたし。一緒にいないときは寂しいけど、一緒にいるときはもっと寂しい。銀ちゃんの首に、唇に、胸に、お腹に、脚に、指先に、いっそのこと溶け込んでしまいたい。どれほど近くで触っても、銀ちゃんに溶け込むことはできなくて、それは一層わたしの苛立ちを募らせる。
いっそ近くで触れることができないほうがいいのかな、だめ、そんなのは耐えられない。ずっとずっと近くにいたい、できることなら銀ちゃんの一部となってずっと、ずっと……

自分が無茶を言っているのはわかっていて、銀ちゃんに話せば困らせてしまうこともわかっていた。だからわたしはいつも微笑んで、やわらかい銀色の髪の毛をさわりながら なんでもないよと囁くの。





「こんだけ一緒にいるのにまだ足んねーの?」

言いかけた言葉をのみ込んで、ただ黙って小さな頭をなでた。いつだって少しさみしそうな顔で首を横に振るこいつに俺はなにも言えなくなってしまう。

たぶん、俺は恐がっているのだ。いつも俺のそばで綺麗に笑うこいつが、いつか俺から離れていくことを。

誰かがずっと一緒にいてくれる感覚 は俺にとっては不思議なもので、どこかで心にブレーキをかけて距離を置いてしまっていた。でもこいつはそんなものおかまいなしで俺の心に潜り込んで来て、猫みたいに丸まって居着いてしまったもんだから、俺は少しずつ、こいつがそばにいる感覚 に慣れていった。それはとても心地良いもんだった。

一旦抱え込んでしまったら失うのがこわくて、こわくて、隣にいるか確かめたくて夜中に何度も目を覚ますこともあった。不安だとは言えずにただ抱きしめるとそんなときはいつも、きょとんとした顔で見つめ返して笑ってくれた。





「……いーよ」

「なにが?」

「けっ、こん」

「……本当?」

「おう」

「……えへへ」

「なんですかこのやろー」

「銀ちゃん照れてる」

「照れてねーし」

「照れてる」

「……わりぃか」

「……ううん」

結婚なんてしたところでわたしのこの欠乏症候群が良くなるとは思えないけれど、わたしの気まぐれを優しく受け止めてくれた銀ちゃんが愛おしくて嬉しくて、少しだけ寂しい気持ちが和らいだ気がした。





純白仕立てのふたりのしあわせ




抱えた不安も寂しさも、ぜんぶ持ち寄って家族になろうね

20130204

ゆずこよりアルテミスの讃美歌様


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