ねえ銀ちゃん、わたし
「こわい」
「なにが」
「……なんだろう」
「なんだそりゃ」
なんだろう、わたしなにがこわいんだろう。例えばそろそろ自分の足で歩かなきゃいけないこととか、いろんな決断を一人でしなきゃいけなくなってきたこととか、なにが正解かわからないこととか?
「わかんない」
わかんないけど、わかんないけどこわい。なんかこわい。助けてよ銀ちゃん。
「……」
ちろっとわたしを見て頭をぽりぽり。なにを言おうか迷うのは君らしくないね。ごめんね、めんどくさいこと言って。
「わかんねえけど、こわい か」
うん。そうなの。地面が根こそぎ落ちて行くみたいなんだ、かといってどうすればいいかわからないんだ。
考えてみても、わたしの思い付くことなんて全部お伽話のようなことばっかで、自分が本当にそんなことできるのかとか、現実逃避かなとか、なんでこんなこと考えてるんだろう、とか。
「お前さあ」
「うまく言えねーけど……考えすぎ」
考えすぎ??わたしが?むしろなにも考えてないって怒られるかと思ったのに。だってなんにもわかんないし、結論でてないし、どうすればいいかわかんないし
「あのね、世の中そんな簡単なもんじゃないの」
わかってる、わかってるよ、わたしが世間知らずの甘ちゃんだってことくらい。でもどうしろっていうの、こうやって生きてきちゃったんだもん、しょうがないじゃん
「人生はお前のちっぽけな脳みそで考えたとおりなんていかねーの。だからうだうだ考えても無駄なの。……それより、いま見えてる道を見据えて、自分の足でしっかり立って、とりあえず歩いて見るんだよ」
「そしたら分かれ道も見えてくるし、突き当たりも見えてくるし、道端に生えてる草も見えてくんだろ」
「それをどうするかは、またその時考えりゃいい。……でも、歩き出さなきゃそういうもんには出会わねえだろ」
「お前はまだ、家からでたとこでうじうじ立ちすくんで用もねえのに郵便受け開けてみたりこの靴でよかったか悩んでみたりしてるだけなんだよ」
「そんなことしてたら約束に遅れちまうだろ?間に合うかわかんなくても、その靴でよかったかわかんなくても、早く行かなきゃ銀ちゃん待ちくたびれて帰っちゃうだろ?」
「そういうことだよ」
銀ちゃんはわたしの頭をくしゃくしゃとなでて、小さな声でがんばれ と言ってくれた。
ああ、ここからはもうひとりなんだ、がんばるのはわたしなんだ…やっぱり、と思ってさみしくなった、でも同時に思ったのは、
「銀ちゃんも、みんなも、そうやって歩いてるんだよね」
「おう」
「それなら、さみしくないね」
「だろ?」
うん、さみしくない。怖いけど、さみしくないよ。みんなそうやって歩く仲間なんだもんね。わたしだけじゃないね。みんな先は見えないけど、信じて歩いてるんだ。
「ありがとう銀ちゃん」
「いちご牛乳15本で勘弁してやるよ」
「ぼったくり」
「えええー銀さんめっちゃいいこと言ったのに」
ふふふ、うん、ありがとね、きっとずうっと忘れない。こうやって歩きながら、いろんなもの見つけたり、落っことしたり、戻って拾ったり、走って取りに行ったりするんだね。
答えは誰もくれないけど、わたしの道の横っちょには時々銀ちゃんとか、お登勢さんとか、神楽ちゃんとか、大切なひとが立っていて、わたしが歩けるようになでなでしてくれる。小さなヒントをくれる。
それは初めてあったひととか、偶然みたものとか、いろいろだけど、そういういろんなものでわたしはできていくんだね。
「銀ちゃん」
「んー」
ときどきは、手をつないで歩こうね。ずうっと一緒じゃなくっても、ときどきは一緒に。
「ううん、なんでもない」
みんなで歩いて行こうね。
幸せは歩いてこない
「だあっから、歩いていっくんだねえ〜」
20131010 ゆずこ