2015年8月
2015/09/13 21:09



月の蛍光灯×青城3年A



「ハァァ………。」



「……どしたの。」

夏休みの部活へ行く電車の中、もうすぐ七夕祭りだね!と今の今までそうはしゃいでいた月島から突然盛大な溜息が聞こえた。

「……どうしよう…。」

「何が。」

「七夕祭り…。」

「??」

俺が首を傾げると、月島は俺の方を向いた。


「二口と……いつ行こう……。」


「はぁ?」

ちょっと読めない。
それを悟ったのか、月島はきちんと説明を始めた。

「七夕祭りって3日間あるデショ?
花巻達と行く日、夜久ちゃん達と行く日、お兄ちゃんと行く日があるの。
だから……二口と行くには……。」

「どこかを削らなきゃ行けないわけか。」

月島は頷いた。
そしてまた、盛大な溜息。

二口と行かなくていいんじゃん?

そう思わず言いそうになるのを堪える。
そんなこと言ったら流石に嫌われるし、嫌われるのは困る。

「…お兄ちゃんと行く日ってのは?」

「去年まではお兄ちゃんとだけだったけど、今年は弟もいるから外せない。」

「そっか…。」



電車が高校の最寄駅に着き、阿吽コンビと合流しても、月島はまた盛大な溜息を吐いた。
当然、及川はそれを見逃さなかった。
月島から事情を聞けば、やっぱり及川は言った。

「二口と行かなければいいんじゃない?」

そう言われた月島は及川を一瞬睨んだと思えば、うすら笑いを浮かべた。


「今年は及川と行けなくて残念だね。
最後なのに。」


思わず俺と岩泉はブッと吹き出す。
及川は慌てて謝っているけど、月島は「残念だなぁ。」と言うばかり。


「オハヨー……どしたの。」


学校に向かう途中で松川と合流した。

「それがさ…。」


訳を話せば、ふぅん、と頷く松川。



「夜久達と俺ら一緒に行けばいいじゃん。」



月島は目からウロコ、みたいな顔してた。





−−−−−−−−−−





七夕祭り初日

「ねぇ花巻、夜久ちゃん達と連絡ついた?」

「まだ。」

「……。」

毎年のことながら、混んでいる駅。
俺と月島は合流できたけど、他のメンバーとは連絡すらつかない状態だった。

「まあしょうがないか…。
この人混みだもんね。」

浴衣姿の月島は、いつもと違う格好が気になるのか、袂や衿をいじっている。
毎年月島も一緒に来てるけど、浴衣姿を見るのは初めてだった。

「…浴衣、夜久達と行く日はいつも着てんの?」

「うん。
この日はみんなで浴衣着るって決めてるの。」

嬉しそうに月島は話す。

「ふーん。」

「…似合う?」

少し素っ気なく返せば、月島は意地悪くニヤッと笑う。


「うん。
スッゲーかわいい。」


お世辞なんかじゃない。
青地に描かれた金魚と菖蒲柄の浴衣。
それを着ている月島は、いつもよりも本当に綺麗だった。

「アリガト。」

少し照れくさそうに笑う。

「…私ね。」

「うん。」

「中学の時、全然友達いなかったからいつも家族としか行けなかったんだ。
中2の時は岩泉と及川と行ったけど。
…だから、その時はまさかこんな風に誰と行くか悩むなんて思わなかった。」

へへへと月島は笑った。


「ありがと。
友達になってくれて。」


「…いーえ。こちらこそ。」


照れくさいけれど嬉しい反面、『友達』と言う言葉に少しだけ寂しさを覚えた。







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