鈍く甘く | ナノ





連日起こる男たちの奮闘に














お姫様は気付かない。













【鈍く甘く】













「てめぇ、ここぞとばかりにナミさんにアピールしてんじゃねぇよ!」


「あぁ?てめぇにだけは言われたくねぇんだよエロコック!やたらと紳士ぶってた奴が何言ってやがる」


「はー、分かってないねぇ、マリモマン。“ぶって”んじゃねぇ、俺は紳士“そのもの”なんだよ」










いい加減にしてくれと、心の底からそう思う。


かれこれ10分は続いているであろう言い争いに、うんざりしているのは自分だけという事実がまた虚しい。






ただ、いつもより少しだけ。本当に少しだけ、ナミの元気が無かった。

ただそれだけのこと。





それだけの、こと…が、この船では一大事。
















思い出しただけで零れる溜め息。優しさ優しさ優しさ。今日、ナミの周りは優しさで溢れていた。



「何でもないわよ」と言うナミを、それこそこの世の終わりかのように尽くしまくるコックはまあ見慣れたモノとして。
ゾロまでもが自らみかんの世話の手伝いに名乗り出た時は、こいつらを不憫だとさえ思った。






いいかナミ、俺様から一つだけ忠告だ。男の優しさの裏にはな、必ず“下心”ってやつが隠されているモンなんだぞ!


と心の中で身振り手振り叫んだところで当の本人に伝わる訳もなく、「ありがとう」なんて素直に男共の優しさを受け取っているナミは、もう手遅れな訳で・・。













ふと、ルフィと何やら笑い合っているナミの姿が目に入った。



おいおいおい、勘弁してくれ。これ以上サンジとゾロを刺激してくれるな。


そう、他の誰でもない、俺様のため。『俺様の身の安全』これが何よりも優先事項。








ルフィには悪いと思いながらも、これ以上あの二人を放っておけば船の修理が手に負えなくなっちまうし、何より今お前らが二人仲良く楽しく喋ってるのは余計に話がややこしくなる訳で。

だから、うん、仕方ねぇんだ。

ウソップ様を恨むなよ、ルフィ。







「おいナミ!サンジとゾロを止めてくれ!」








「また〜?」なんて言いながら面倒臭そうにこっちへと歩いてくるナミに後のことは全て託して。

俺様はしっかりと安全スペースを確保して。







ウソップ工事、開設!俺様は何も知らない、何も見てない。









背中から、ナミの怒鳴り声と鈍く重く響く音が二つ。


もはや乱闘にまで発展している争いの原因がまさか“自分”だなんてこと知りもしないナミが、いつもの如く拳骨を振り落としたのだろう。









(“知らない”って罪だよなぁ…、)














***













「ねぇ、私、そんなに情けない顔してた?」






そろそろ夕食だろう、そんな時間。
ナミが俺の元へとやって来て、そんな質問を投げかけた。


ルフィ、ゾロ、サンジ、周りに奴等がいないことを充分に確認して、ナミを隣へと座るように捉す。




「どうしたんだよいきなり」

「皆、今日は優しいじゃない?あのゾロまで、なんか、調子狂うわ」




気付いてたのか。と一瞬思ったが、冷静に考えれば気付かない方がおかしいだろう。

それでもきっと奴等の“本心”にまでは気付いてないであろうナミに、俺様は苦笑いを向けて次の言葉を待った。




「夢を見たの。昔の、嫌な夢。もう大丈夫だって、落ち着いてから皆の所へ行ったのよ?なのにアイツら、皆揃って私に気使うんだもん。」


「ルフィになんて、ハッキリ言われちゃったわ、『お前今日変だぞ』って」







俺はまだまだ甘かった。

この女の元気が無い、それは只事では無くて、それを放っておくなんてもっての他で。


皆、純粋にナミのことが心配だったのだと、心配ゆえの優しさは“好意”から来るもので。




「ははっ、愛されてる証拠じゃねぇか」





勿論、俺様だって。




皆、ナミを見てる。ナミの異変に気付く。それぞれのやり方で、ナミを気遣う。


サンジはありったけの優しさ、ゾロは不器用な優しさ、ルフィは素直さ、

俺様は、俺様のやり方で。







「ナミ、ある国のお姫様の話をしてやろうか?」



皆に愛されているのに、その事実に気付かない、鈍感な、幸せな、美しいお姫様のお話。


























「ウソップ、お前夕べはナミさんと二人で随分と楽しそうだったじゃねぇか」





一日の終わりを告げる男部屋、俺様を待っていたのは快適な睡眠ではなく、どこぞのヤンキー顔負けに凄みを効かせたサンジだった。








「ひぃ!見てたのかね、サンジ君!」

「てめぇに『サンジくん』なんて呼ばれても嬉しくねぇんだよ!ナミさんが呼ぶからこそ意味があるんだ!」

「うっせぇな、てめぇら!眠れねぇだろ!!」

「そうだぞお前ら、くだらねぇ言い争いすんな。ナミはおれのなんだからよ。」

「「お前のその自信はどっから来るんだ!!」」

「どこってお前、ばかだなー、海賊王になる男だぞ、おれ」







夜の男部屋、男達の闘いは、まだまだ続く。










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