その一言 | ナノ






自覚が無ぇのか、この女は。















【その一言】










部活を終えて、玄関に向かう途中。



廊下に立ち止まる生徒の多さにちょっとした違和感。


生徒達が見つめるのは教室の一点。






その教室の光景に、心底溜め息が漏れた。




いやいやいや、おかしいんじゃねぇのか。










ここでナミが寝てるのも。

ナミの寝顔を遠巻きに眺めてはざわついている見物人共も。

















窓際の一番後ろ。

日当たり良好、寝るにはもってこいの特等席。



普段ならば、俺の席。




そんな席で今はナミが可愛い寝顔を全面に曝して夢の中。




言いたいことは沢山あるが、まず一言。





寝るのは勝手だが、顔を隠せ馬鹿野郎。





今は帰宅ラッシュというやつで。

部活を終えた生徒が玄関を目指すには必ずこの教室の前を通る訳で。




そんな教室で学校のマドンナなんかの寝顔が公開されてたら、そりゃあ大抵の男は立ち止まる訳で。






そんな展開はやはり、俺としては面白くねぇから。



「おい、ナミ、起きろ」



ナミの側まで寄って、肩を揺する。





そうしながらも、ナミに向かう幾多の視線に睨みを利かすことも忘れない。



“こいつは俺のだ、見てんじゃねぇ”

そんな思いを視線に込めて。







「んー」

「ナミ、もう7時んなるぞ」

「ん」

「おい、ほら、立て」





無理矢理立たせて、支えてやる。


ここまでしねぇと、ナミは起きようとしねぇから。



「あ、ゾロー」


ようやく瞼を開いたナミのきょとんとした様子に、呆れの混ざった深い溜め息。



「何よ、可愛い彼女の顔見て溜め息なんて失礼ねー」

「‥お前、なんで俺の教室で寝てんだよ。今日は先帰るって言ってただろ。」

「先帰るつもりだったけど、なんか暇だったからゾロの机に落書きしようと思ってv」


「んで、気付いたら寝てたのか?」

「んー、どうせならゾロ待ってようと思ってたんだけど余りにも良い席だったからちょっと寝てみたら、最高の寝心地v」


「‥‥‥。」



「‥あら、ゾロ何か怒ってる?」




「いや、怒ってる訳じゃねぇ。けど‥」








言葉に詰まる。



怒ってると言うか、何と言うか。


自分でもよく分からねぇこの感情。







ナミの寝顔を見れるのは俺の特権だったのに、色んな奴等がナミの寝顔を見たということも。

自分と同じようにナミを想ってる奴が何人も居るという事実も。





ただ何となく、嫌だった。







「てめぇは俺の女だろ」


「? 何よ今更。」






自分でも何を言いたいのか分からねぇ。


ただ、ナミは俺の女だから。




ナミの男は俺だから。






ナミを取り囲む視線に負けねぇ自信が欲しいんだ、多分。





「俺が、好きか?」


それだけで自信が持てるから。




「えぇ、好きよ、ゾロが」

「‥俺もだ。」
















単純な俺は考える。












明日は手を繋いで歩こうか。




幾つもの視線に見せつけるように。









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