鎖 | ナノ








「昔話に付き合ってくれるか?ジンベエ」











「昔話?わしで良ければ付き合おう」











【鎖】











インペルダウンに連行されて何日が経ったのか。

ここにいると時間感覚なんて無くなっちまう。







無限の地獄。


それがここ、インペルダウン。











「俺に弟がいるのは知ってるだろう?」







「エースさんがいつも話しておった、麦わらの‥」




「そう、“麦わらのルフィ”。詳しい話はしたことあったか?」




「いや、あまり聞いてはおらん」





「そうか、」








死と紙一重、いや、確実に死へと向かってる今の状況で。


何故、今ルフィの話をしたくなるのか。





頭に浮かぶのはたった一つの約束と。


きっともう会えぬ弟への後悔。






「昔っから世話のやける奴でよ、泣き虫で弱虫だと思ってたのにいっちょ前に海賊になりやがった」





「‥‥」






「アラバスタで会ったんだ。仲間も気のいい奴らでよ。“麦わら海賊団”って聞いたことあるだろ?」






「世界政府に喧嘩を売った、前代未聞の海賊団‥。今じゃ知らない者の方が珍しいじゃろう」







少数ながらも、一味のトータルパウンティは六億を越える。

ルフィに至っては、今じゃ三億の大型ルーキー。




(あのルフィが‥)




自然と口角が上がるのは、チビで弱虫なルフィを知っている兄の特権だろう。




「くくっ、その通りだな。昔っから危なっかしい奴だったんだ。無茶ばっかりする。世界的には凶悪な犯罪者でも、俺にとっちゃまだまだ手のかかる可愛い弟だ」






「約束、したんだ。」







俺達が出会ったあの村で。


俺の一言にあいつの顔は馬鹿みたいに輝いた。


散々泣き腫らした顔で、太陽みたいに笑ったルフィ。




俺の可愛い弟。









「弟を、ルフィを残して、俺は死ねねぇ」











「‥エースさん、」





ジンベエの呟きは何を意味するのか。



傷だらけの身体で、鎖で繋がれた身体で、今にも死にそうな俺を見て。





何を思ったのだろうか。







「さあ、昔話は終わりだ。付き合わせて悪かったな、ジンベエ」








何も深く聞いてこないジンベエは大人だ。


俺の気が済むまで話を聞いてくれたことに感謝する。




感謝を述べようとした俺よりも、先に口を開いたのはジンベエの方だった。








「エースさんは、弟のことを話す時、本当に良い顔をしておる」






決意とか愛しさとか後悔とか安らぎとか。




ジンベエの言う“良い顔”がどんなモンかは自分では分からないけど。





そう告げたジンベエの顔だって、十分“良い顔”をしていた。






「あぁ。可愛くて仕方がないもんで」






熱くなる目頭には、気付かないふり。




挑戦的な笑みは、せめてもの強がり。










(ルフィ、元気でやれよ‥)








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