たった一人の | ナノ





今、俺の弟は














絶賛不機嫌中。













【たった一人の】




















風車がよく目立つ長閑な村。


この村の暮らしにもだいぶ慣れ、弟という存在が何よりも大きくなってきた今日この頃。





最近じゃあ、どこへ行くのにも一緒。



弟が視界から消えると途端に心配になる始末。







己の血を恨み、生きることに何の意味も見出だせなかった俺にとって初めての宝物、ルフィ。












そんなルフィは今、もの凄く不機嫌だったりする。






「なぁルフィ、何やってんだ?」


「‥‥‥‥」


「言いたいことがあんならハッキリ言え、な?」


「‥‥‥‥‥‥」








はて、一体どうしたもんか。

俺の言葉は聞こえているはずなのに、ルフィは地面との睨めっこをやめる気は無いらしい。








朝、家を出た時はいつものルフィだった。





不機嫌になったのはいつからだ?




そもそも、こいつがこんなに黙り込むことなんて初めだ。




そんなに機嫌が悪くなるようなことが、今日あっただろうか?








朝飯も昼飯も、いつも通り俺の分までペロッと平らげた。



冒険に行くぞ!と言われて向かった林の中で意味の分からない歌を口ずさむルフィも、いつものルフィだった。



ケンカしよう!と言われて始まったケンカだって、いつもと変わった所は一つもなかった。


相変わらずルフィは弱かったし、「次は負けねぇ!」と意気込む姿は見慣れたもので、今更負けたからといって不機嫌になるような奴でもない。







ルフィが不機嫌になったのは、その後。


さて、原因は?















いくら記憶を辿っても、原因は見付からない。






ルフィの異変に気付いたのは、家へと向かう帰り道。
ルフィの口数がいつもより少なかった。


おかしく思った俺が「どうした?」と聞いた時からルフィは無言を決め込んでいる。








「ルフィー?」


「‥‥‥‥」


「どうしたんだよいきなり。何か言ってくんなきゃ分かんねぇだろ?」



「‥‥‥‥」






相変わらず口を開こうとしないルフィに、溜め息が漏れる。




“兄貴”ってこういう時どうしたらいいんだ?


チラチラこっちを見てくれるものの、その瞳にうっすらと涙なんか浮かべてるもんだから、俺は焦る一方。




かれこれ15分はこんな状態が続いてるだろう。





「とりあえず、帰るか。」



悩んだ挙げ句、俺が出した結論は“とりあえず家へ”。


ルフィはなかなか頑固なとこがあるから。


このままじゃラチが明かないと判断した俺なりの結論。





「ほら。」





ルフィに手を差し出す。


普段は恥ずかしいからなかなか手は繋がないけど、今回は特別。






「早くしねぇと先帰っちまうぞ?」



悪戯っぽく告げれば、ルフィに慌てて手を掴まれた。



こういう素直なところは、かわいいって思う。

















「‥エースが、悪ぃんだからな」





手を繋いで百メートルくらい歩いた頃、ルフィがぽつりぽつりと話し出した。






予想はついていたが、やはり原因は俺にあったらしい。





「俺、何かしたか?」




心当たりは無いが、俺の何らかの行動がルフィの気に触ったのは事実だ。


理由を言ってくれたら、謝ることができる。










返事を急かすように名前を呼ぶ。


返って来た返事は、あまりにも可愛いものだった。











「‥‥‥エースが、“兄ちゃん”って呼ばれてデレデレしてた。エースは、あいつの兄ちゃんじゃねぇ。」






「おれの兄ちゃんだ」



語尾になるにつれ小さくなっていくルフィの声は、確かにそう言った。






ルフィの言う“あいつ”とは、先程出会った少年のことだろう。



いつもの帰り道、少年が泣いている所に出くわしたのを思い出す。


聞けば、転んで足を怪我したのだと少年は言った。



絆創膏は怪我が絶えないルフィの為にいつも持ち歩いている。




そう言えば、少年に絆創膏をあげた際に「ありがとう、お兄ちゃん!」と言われたかもしれない。






ルフィは、その時のことを言っているのだろう。








「お前、それで機嫌悪かったのか?」


「!だっ‥って、俺の兄ちゃんはエースだけなのに、エースは違ぇんだろ?おれはがっかりだぞ!」



「そうかそうか、それで機嫌が悪かったのか、そうかそうか。」



「あ!おい!何笑ってんだエース!おれは真剣だぞ!真面目に聞け!」




「あぁ‥、悪ぃ悪ぃ」





声は今だに笑いを含んでいる。



だってそうだろ?




言われた本人の俺でさえ気にも止めない小さなことで、ルフィはこんなにも機嫌が悪かったのだから。




ヤキモキを妬いてくれているのだろう、兄貴の俺に。



愛しさと可笑しさから、俺の頬は緩む一方で、そんな俺を見てルフィはまた怒るけど。






「違ぇんだルフィ、決して馬鹿にしてる訳じゃねぇ、嬉しいんだよ」



笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭きながらルフィに伝える。






「嬉しい?なんでだ?」



「お前が俺のこと“兄ちゃん”って認めてくれることが、嬉しいんだ」




「エース、今嬉しいのか?」



「あぁ、最高にな」



「そっか!しししっ」







さっきまで不機嫌だったくせに。


そんなこと微塵も感じさせない太陽みたいな笑顔で、ルフィが笑う。


(兄弟って、イイモンだ‥、)







「あ!エース!」


「どうした?」


「エースは今までもこれからもずっとおれの“兄ちゃん”だぞ!」



「あぁ、俺の“弟”もルフィ、お前だけだ」








家はもう目前。



家に着く頃には小さい兄弟はお互いの手をしっかりと握って。











それはそれはよく似た笑顔で笑っていた。






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