嗚呼、恋よ | ナノ






嗚呼、神様。






今日こそ平和な一日を過ごせますように。












【嗚呼、恋よ】














俺の学校には、魔女がいる。


俺様の平和な日常を、見事に崩してくれた魔女。

オレンジ色の髪した、魔女。




「おい、お前いい加減目ぇ覚ませよ。悪い事は言わねぇ!あんな魔女のどこが良いんだ?」

「あぁ?ウソップてめぇ、魔女とはまさかあの麗しのナミさんのこと言ってんじゃねぇだろうな?」

「ナミ以外にいねぇだろ。魔女なんて言葉が当て嵌まる奴」

「ウソップ。いいか、よーく聞け。次からはナミさんのことは女神と言え。あの美しさは女神としか考えられねぇ!!」



はぁ。

まったくどうしたものか。
隣を歩くサンジ、こいつは思いっ切り魔女の魔法にかかってる。


俺からしたら、“ナミバカ”。



親が子供を溺愛することを親バカと言うが、サンジはまさに、ソレ。

もはや中毒なんじゃないかと思う。







サンジは俺の隣で、すげぇ気持ち悪い顔して歩いてる。

時々「ぐふふ」などと怪しい笑いが漏れてるということは、頭の中は完璧ナミ一色。


サンジはもはや、病気だ。
ご愁傷さん、と心の中で合掌。





と、そこで見慣れた後ろ姿を見つけた。





「ルフィ!ゾロ!」


名前を呼ぶとすごい笑顔でぶんぶんと手を振るルフィと、これまたすごい仏頂面でこちらを睨んでいるゾロ。




俺等四人は昔っから仲が良い。

所謂、幼なじみというやつだ。


「おいおい、今日はえらく機嫌悪ぃなゾロ‥」



が、


正直、機嫌の悪ぃ時のゾロの顔は17年間一緒にいる俺様からしても、めちゃくちゃ怖ぇ。

目が合っただけですいませんでしたと謝ってしまいそうな勢いだ。



「おいクソマリモ、人が朝からナミさん一色で幸せな気分に浸ってんのにぶち壊すんじゃねーよ」

「あぁ?黙れグル眉」



「ゾロの奴、おれがナミの名前出した途端に機嫌悪くなってよー「ルフィ、黙れ」




ああ、俺様としたことが大事なことを忘れてた。



何も“ナミバカ”はサンジだけじゃない。

ルフィもゾロも、正真正銘“ナミバカ”の一員だったのだ。









「ああー!もう朝から止めてくれぇぇえぇぇぇーっ!!」







青空の下、俺様の叫び声が、よく響いた。




***





「あんた達いつも遅いのよ。全員揃って遅刻なんて、信じらんない」


学校に着いた俺等を呆れた様子で出迎えたのは、今年この学校に来たばっかりの、数学教師。



この数学教師こそ、俺様の平和な日常を奪い去った魔女。




ナミがそこに居ると分かった瞬間、ルフィはナミの元へと走る。

「ナミ!おはよう!今日も大好きだ!!しししっ」



そんなルフィへ蹴りを入れるべく、サンジも走る。


「おいこらクソゴム!ナミさんから離れやがれ!!さぁ、おはようナミさんv今日こそ僕と一緒に恋の方程式を解いてみませんか?vV」

そんなサンジを押しやったのはゾロ。



「ナミ、お前あんま短いスカート穿くな。胸のボタンも閉めろ。男子生徒と目ぇ合わすな。」

「ちょっと待てクソマリモ!なんでてめぇがナミさんの隣を陣取ってんだ!」

「サンジー!お前なんでいきり蹴るんだよ!びっくりすんじゃねぇか!」




今日も始まった、魔女を巡ったプチ騒動。

こんな中、ナミを逃がしてやろうとする俺様は、なんて良い奴なんだろうか。



「おいナミ、お前今のうちに逃げろ」


格好良く誘導してやったのに、




「あんた達、全員ちゃんと“ナミ先生”って呼ばないとテストから50点引くわよ」



ナミの口から出たのはこんな台詞。




だからこいつは魔女だっつってんだ。



助けてやった俺様に対しての第一声がこれだ。

おまけに、どんだけ男に言い寄られようとも、顔色一つ変えない。


自分の魅力を十分に分かってるんだ、きっと。




何でこの学校の男共は、面白いくらいにナミに夢中になるのだろう。


俺には全く分かんねぇ。



こんなことサンジにでも言ったら哀れんだ目で見つめられ溜息まじりにナミさんの魅力が分からないなんて可哀相な野郎だな‥とでも言われるに違いない。

そんな様子のサンジが容易に頭に浮かぶ。



溜息を吐きたいのは俺様だ、頭の中のサンジの馬鹿野郎。









***






昼休みに、事件は起きた。





ゾロとナミが並んで歩いている。

周りから見れば、ただそれだけのこと。



だが俺様からしたら大事件。





「おいそこのクソマリモ野郎ぉ!」


ほらな。

こんな状況、他の“ナミバカ”が許すはずねぇ。



「てめぇマリモの分際で何ナミさんと仲良く肩並べて歩いてんだ!」

「いちいちうっせーんだよ、素敵マユゲ」

「カッチーン、今何つったコラ」

「あ゛ーっ!お前等おれの居ないとこでナミと仲良くすんな!ずりーぞ!」




毎日毎日、よく飽きないよな。

もはや殴るは蹴るはの乱闘騒ぎを、俺様は保護者気分で観察。




「ナミ、お前も大変だな。」


「まったく、罪な女ね、私ったらv」


腕を組んでニッコリ微笑むナミを改めて眺めてみたら、可愛い。


でも素直に可愛いと認めたくないのは、この勝ち気な台詞のせいだろう。


「もう少し、大人しかったらな‥」


「本当あいつら、元気ね。まだ喧嘩してるわ」


あたしが殴ったら収まるかしらなどと不吉な提案をしているナミに、さっきの俺様の発言はお前のことだよというツッコミは、胸の中に閉まっとくとしよう。




「お前の魅力、俺には分かんねぇよ‥。」


「あら、可哀相な男ね」



確かにこうして話してると、年齢差も感じさせない気さくな雰囲気は、心地好いと思える。


やはり、この女は良い女なのかもしれない。




そう考えを改めていた矢先、





「おい長っ鼻!てめぇ誰の許可取ってナミさんとお喋りしてんだ!」


「ウソップ、てめぇその鼻折られてぇのか?」


「見損なったぞウソップー!」




おいおいおい、ふざけるな。

助けを求める意味でナミに目を向けてもナミは可愛らしく「あらv」などと言って舌を出している。




「待て!サンジ!ルフィ!ゾロ!誤解だあぁああ!!」





前言撤回。


やっぱりこいつは俺にとって、永遠に魔女。




ナミがこの学校に来てから俺様には傷が絶えない。


俺様の平和な生活を見事に崩してくれた魔女め。



もう一度、傷を負わない平和な生活を送りたいと思うのは儚い夢なのだろうか。


頼むから、もう蹴るのを止めてくれ。

俺様をお前等みたいな体力バカのバケモンと一緒にすんな。







「ルフィ、ゾロ、サンジ君!もうチャイム鳴るわよ!私の授業に遅刻したら許さないんだから!」





「弱い者いじめはそれくらいにしときなさいv」



そう言って可愛く笑ったナミに救われたのは癪だが、とりあえず助かった。



「おい、お前等、教室行くぞ?」

「「「‥‥‥」」」


「サンジ?」
「‥‥‥ぬわみすゎ〜ん!!今行くよぉぉ〜v」



「ゾロ?」
「‥‥あの笑顔はやべぇだろ‥」



「ルフィ?」
「んん!ナミはやっぱ可愛いな!」







嗚呼、もう勝手にしてくれ。






一つだけお願いだから、












どうか俺様を巻き込まないで










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