愛故に | ナノ
頼む。











俺から逃げてくれ。










【愛故に】












世界一を目指して村を出た。親友との約束。それだけが俺を動かしていた。

一人で生きてきた。仲間なんていらなかった。己の強さだけが頼りだった。



海賊王に出会った。正しく言えば後に海賊王になるだろう人間。そいつの思考回路は理解に苦しむが自分に仲間になれと言った。そいつの純粋な奔放さに惹かれた。





泥棒猫を拾った。オレンジの毛並みの小さな猫。普通に考えて人間なんだが、俺にはどうしても猫に見える。

その身の軽さとか近付きすぎると離れてく掴み所の無い感じだとか。


そんな猫に恋焦がれた。





懐かせたい、と強く願う。


自分の膝に抱いて鳴かせたい、と夢を見る。



首輪を付けて、自分だけのものにしたい。



いつからだろう。

俺の愛が歪んでしまったのは。









“恐い”と怯えるアイツがいた。


“助けて”と涙ぐむアイツがいた。


オレンジ色の髪を振り乱して“嫌だ”と叫ぶアイツがいた。


大きな目を更に見開いて細い肩を震わせるアイツがいた。



俺が守るって決めたのに。
俺があいつに残せるものは安らぎではなく、傷痕。


「ナミ‥、」

いつからお前はこんなに怯えた目で俺を見るようになったのだろう。



ルフィや他のクルーに向ける目はあんなにも穏やかで優しいものだと言うのに。

沸々と沸き上がる黒い感情。

今宵も止まらない、自分でもどうする事もできないこの激情。




抵抗するナミを無理矢理組み敷いて。

それで以上抵抗できないようにと暴れる両手を自分のバンダナで縛りつけた。


「ゾロ‥ゃ、やだあ、」

ナミに自分だけを見て欲しくて、自分だけのものにしたくて。

もう何も考えられなくなればいい、お前は俺のことだけ考えてればいい、と言葉に出せば抵抗するナミに対しまた沸き上がる黒い感情。



独り占め出来ないのなら、




「いっそ、壊れちまえばいい。」








***








ナミが目を覚ました時、既にゾロの姿はなかった。

どうやら自分は、気を失ってしまってたらしい。


ベットから起き上がろうとすれば、あちこちと身体が痛む。

下半身に感じる痛みに加え、手首や腕に幾つか痣が残ってるのに気付き、今回の行為の激しさを際立たせた。



部屋にいないという事は、一人、反省でもしているのだろう。





こんな状況にも、もう慣れた。

相変わらず痛む身体には悩まされるが、ゾロ自身も己の感情に戸惑っているらしい。







ゾロは時々、己を失う。




それは私が他のクルーと楽しい時間を過ごしてゾロに全く構ってあげなかった時だとか、見知らぬ街で話しかけて来た男に笑顔を向けた時だとか、色々。


つまりは、激しい嫉妬、独占欲を自分でも抑え切れなくなった結果が、“アレ”なのだ。





流石に私も、初めてゾロの激情をぶつけられた時は殺されるんじゃないかと本気で怯えた。


その時は、気を失った私の頭をずっと撫でていたらしいゾロが、私が目を覚ますと同時に泣きそうな顔で誤ってきたものだから、私が悪いことをしたような気になってしまった。

だって、ゾロのあんな弱い顔、初めて見たんだもの。


あれから何度か同じ体験をして、分かったことが二つ。



一つめは、私が目を覚ました時には必ずと言っていい程ゾロの姿は見えないということ。


どうやら、自己嫌悪に陥り私の顔を見ていられなくなるらしい。

そんなゾロを探し出して声をかけてあげるのは私の役目。



そうすればゾロは、今にも泣きそうな顔で謝ってくる。

触れるのも戸惑っている様子のゾロを「もういいのよ」って抱きしめてあげるのも私の役目。




二つめの分かったことは、あの表情を見せられた私は簡単にゾロを許してしまうということ。









そして今日も。




展望台で海を見つめるゾロを見つけた。







***







頭を冷やしたくて、部屋を出た。



傷つき、気を失ったナミを見てられなかった。

我ながら最低な男だ。






うっすらと涙の跡の残る頬に指を滑らせ、冷たい感触にゾクリとした。




「すまねぇ‥‥っ」


ナミには届かないであろう呟きを残し部屋を出た頃には、だいぶ冷静になっていたんだと思う。





ふらふらと歩いていたら展望台に着いた。


冷静になったところで、打ち寄せて来るのは止まる事なき後悔の念。



(ナミ‥‥、)




大事にしたい女を大事に出来ない自分に腹が立つ。


伝えるべき言葉は分かっているのに、伝えられない自分に嫌気がさす。




いつも、最後には抱きしめて許してくれる彼女の優しさに甘えているのだ。


本当に彼女を想うなら、自分がとるべき行動はただ一つだというのに。







***






背後から自分の名を呼ぶその声に、ドキリと、心臓が跳ねた。






「ゾロ」

「‥‥。」

「ねぇ、こっち向いて?」



今回だけは、ナミの顔を見れそうに無ぇから。


身体ごと振り向いたと同時に強くナミを抱きしめた。


「ちょっと、ゾロ?!」




顔を見ちまったら、きっと言えないだろうから。













「ナミ、別れよう」











本当は知ってる。


ナミが他の野郎と喋った後、俺と目が合うだけで凄く怯えた目をすること。



俺のことを許すと言って笑っていても、身体が恐怖を覚えちまってること。



それでもナミが俺のことを好きって言ってくれるのは嘘じゃねぇってことも分かってる。






だけど沢山泣かせてきたのは確かで、身体に傷も作っちまった。


もっと早くに言うべきだったんだ。




本当に大事だから





愛してるから







お前を、解放する。









「別れよう、ナミ」







「今まで、悪かった」






ナミを抱きしめるのも、これが最後になんのか。そう思うと自然に腕に力がこもる。





「ナミ、、、愛してる」











震える声でそう告げると、これまた震える声が返ってきた。







「愛してるなら、なんで‥」


「愛してるから、別れるんだ、ナミ」


「そんなのわかんない」


「お前は俺が怖いだろ?」


「そんな事なっ「本当か?」


「俺はお前を沢山泣かせてきた。それが答えだ。」


「‥‥‥っ」


「ナミ、今までありがとな」


「ゾロっ!私も本当に、愛してたっ‥‥ッ」


「あぁ、分かってる」











ナミ






本当に、愛してる











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