その日一つ色が増えた | ナノ



「隊長、」


「何だよい」









「 好き 」





















その日一つ色が増えた



















「酔ってるのか?」

「あれくらいの酒、私が酔う訳ないじゃない」


「だろうな、聞いてみただけだよい」





酒の力を借りてとか、酔った勢いでだとか。そんな言い訳をできたなら、どんなに楽か。

沢山の勇気や覚悟。色んなモノを寄せ集めて伝える言葉は、いつも彼のペースに流される。





周りに転がる船員達に、部屋一杯に充満した酒の匂い。

何で私は、酔えないんだろう。理性も全部ふっ飛んで、本能だけで行動できたら、どんなに楽か。

次の日には「覚えてません」と。そんな逃げ道を用意してくれたっていいだろうに。











「お前は、俺の大事な仲間だよい」


「でも、男と女だわ」


「お前はまだ若いだろ、男なら他にも沢山いる」


「隊長がいい、分かってるくせに」



「俺が“隊長”だからか?」



「じゃあ“マルコ”って呼べば分かってくれる?」










いつもと違って食い下がった様子の私に、隊長はわざとらしく溜め息をつく。

慌てる様子のない彼の態度に、私はまたどうしようもなく惹かれるばかりで。









「どうしたら、言ってくれるの?」

「?」





私には、解らない。どうして彼が頑なに己の気持ちを否定するのか。

年齢とか立場とか、そんなこと気にして欲しいんじゃなくて。


いつだって、ただ一言が欲しいのに。










「怖がってんじゃないわよ。あなた海賊でしょう?ましてや、隊長らしくもない」







彼の瞳が揺らぐのを、私は確かに見た。

常識なんて通用しない無法者のくせに。好きなら好きと、怯えることなんて何もないじゃない。





隠す彼が大人なのか、知りたいと願う自分が子供なのか。

怯える彼が子供なのか、伝える自分が大人なのか。







私は少し、酔っているのかもしれないと、今更ながらに気付く。
それでも私に、「覚えてません」などと言える逃げ道はなくて。

待っているのは何も変わらぬ日常か、それとも。












真っ直ぐと、今日から、今から。

ここまで来たら後悔なんてするもんか。その決意を胸に隊長を見据える私は、やはりまだまだコドモなんだろうけど。






目の前で何やら俯いた様子の隊長からは、いつもの大人の余裕とやらも消えていて。


初めて見せる彼の動揺の色を見過ごすなんてできなくて、ただどうしようもなく、抱きしめたくなった。














「隊長、好きよ」








抱きしめると言うよりは、抱きついていると言った方が正しいけれど。
告げた言葉に、隊長の腕がビクッと反応したのが分かった。








「ねぇ、抱きしめてよ」










宙をさ迷う手は、やがて遠慮がちに私の背中へと回された。

触れている程度だけれど、その温もりに満足した私からはふふっと笑みが零れる。





彼を包み込む空気、戸惑い、遠慮。戸惑い、恐怖。戸惑い、そして愛しさ。

やがて意を決したような隊長の声が、頭上から降り注ぐ。











「俺は、きっとナミを泣かせるよい」



「今更だわ、そんなの」






想う涙の温かさを、私はもう知っている。



私の返答が合図だったかのように、背中に回された腕に力が篭った。







「ずっと、こうしたかった」










それは隊長の声か私の声か。

否、言葉にしたのか心の声か。



小さく、それでも想いが溢れた、そんな声だった。








どちらのものかも分からない。

この体温も、愛しさも、沢山の葛藤も。それぞれが、一つになって。









「好きだよい、ナミ」


「ふふっ、知ってます」










全ての色を混ぜて、やがて新しい色が生まれた。














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