この胸いっぱいの、愛を | ナノ





「ただいまー」













時刻は午後16時。


玄関の方で、聞き慣れた声が響いた気がした。

















この胸いっぱいの、愛を

























「ナミー?居ねぇのー?」



靴を脱いで玄関へ上がる。
一向に返って来ない返事に、溢れてくるのは苛立ちと、焦燥感。






確か今日はナミが通う高校が開校記念日で休みだとかで(ちなみに俺は近くの男子校に通っていたりする)、一日中家に居ると言っていたはずだった。




兄ちゃんが帰って来たぞー、なんて酔っ払いじみた台詞を吐いてみても、その声にはしっかりと苛立ちが見て取れる。







学校を出る前にきちんと連絡するべきだった、とか、もし男と遊びに行ってたなら今日はもう口も聞いてやらねぇ、とか。


そんなこと考えながら開いたリビングのドア。





そのドアの向こうの存在に驚いたのは一瞬で、次いでやってくるのは安心感とでも言うべきか。









「居るんなら返事くらいしろっつーの。」





ソファーに横になって眠っている妹に、聞こえないであろう声を掛けて。


無茶なことを言っていると自覚はできても、緩みそうになる頬を隠すように、何か喋っていたかった。





表情だけなら相変わらず眉間に皺が寄せられた“不機嫌”のままだが、その声からはもう怒りは伺えない。






一人の時間が好きじゃない自分にとって、本来ならば今すぐナミを起こしてしまいたいところだが、気持ち良さそうな寝顔に、ソレをするのは躊躇われた。



このまま寝顔を見ているのも良いだろう。目の前にいるこの存在に、どうしようもなく安心する。






気持ち良さそうに眠るナミを起こさぬように、そのソファーへともたれ掛かった。そこで、 ナミの肌にうっすらと鳥肌が立っていることに気付く。


今しがた外から帰ってきた自分にとって、室内は涼しく気持ちが良いくらいだが、ずっとこの室内にいたナミにとっては肌寒いくらいなのだろう。









「だからエアコン付けて寝るなって言ってんのに、」





ピッと小気味よい音がして、エアコンの羽が閉じる。

何かナミに掛けてやれるモノを探すが、見当たらないのでうっすらと汗ばんだYシャツを脱いでナミへと掛けてやった。










「、ナミゾウ ?」

「悪ぃ、起こしたか?」

「んーん、だいじょうぶ」



寝起きでまだ眠いのだろう、拗ねたように目をこするナミの姿にふ、と口元が緩む。

時々妙に大人びた雰囲気を漂わせる妹の、幼い少女のような行動が大好きだ。





無論、どんな妹も心底愛でているのだけども。








「眠ぃンならまだ寝てろよ、飯なら俺が作っといてやるから」

「、、、だめ!今日は一緒にご飯つくるの!」

「は、なんで?」

「『なんで』って、、、サイテー」

「は?ちょ、ナミ?」




寝ぼけてんのか?その言葉はギリギリで飲み込んだ。


つい数秒前まで眠さで焦点の定まらない目をしていたというのに。

今ではキッと怒りを含んだ目でしっかりと俺を睨みつけているのだから。






「もういい。ナミゾウなんて知らない」

「何でいきなり不機嫌なわけ?」

「私寝るからナミゾウご飯作ってよ、おやすみー」




ソファーで再び寝る体制を整えるナミを前に、訳も分からず状況を飲み込めない俺。
見つめる視線に気付いたのか、ナミは俺とちらりと目を合わせてからぐるりと勢い良く背を向けた。





妹のいきなりの態度の変化に兄はわざとらしく溜め息をつく。



それからゆっくりとしゃがみ込んで、優しく妹の名前を呼んだ。


頬にかかった髪を耳にかけてやり、髪へと触れる手はそのままに。







「一緒に飯、作りたかったのか?」

「・・・」

「ナミ、無視は許さねェぞ」








わがままで気分屋で、可愛い可愛い妹だが、それ以上に。


わがままで俺様で、自己中な兄なのだ。



長年の付き合いでわかっている、結局はこうやって、兄へと視線を向ける羽目になるのだと。





ぐるりと身体ごと兄を振り向くと、見慣れた優しい瞳が同じ高さにあった。






「ナミゾウが悪いんだからね、」

「・・・」





一緒にご飯を作ろうと思った、だけどそれを断られた、そのことで怒っている訳ではない。


大事なのは、ナミゾウが“忘れてしまっている”今日が何の日か、、、







「誕生日!」

「へ?」

「今日!7月3日!!」



慌てて携帯で日付を確認するナミゾウと、怒っているというよりは拗ねていると言った方が正しい様子のナミ。


今日が7月3日、自分達の誕生日であると気付いたナミゾウは、要約合点がいったというように恐る恐るナミを見た。







「怒ってる、、、よな?」

「もういいわよ、どうせ覚えてるとは思ってなかったし。」

「すいません」

「実際にこうも綺麗に忘れられちゃうとショックだわ」

「ごめんなさい」







いつもの強気はどこへやら、本気で反省しているらしい兄の姿(その反省っぷりは自分自身を呪いそうな程である)を見せ付けられて、ナミはふふっと微笑んでから楽しそうに兄の名前を呼んだ。




顔を上げて視線がかち合ったナミゾウに、「ん、」とナミの両腕が伸びる。




慣れた動作で脇に手を指し込んで抱き起こしてくれる兄に、すっかり機嫌が良くなった様子の妹はぎゅっと抱き付いた。





「誕生日おめでとう、ナミゾウ」

太陽のような笑顔で、自分と共に成長してきた少女が笑う。

いつだって大事なのはこの腕の中の存在だと、何度目かの実感をする。





ちゅっと髪に口付け、優しくナミを抱き直した。





「ナミも、誕生日おめでとう」





産まれてきてくれてありがとう、共に育ってくれてありがとう、温もりを、安心感を、、



伝えたい言葉は、頬への口付けに込めて。





「ふふ、大好きよお兄ちゃんv」



この笑顔が他のヤツに向けられる日が来るなんて、考えただけで気が狂いそうだ。






「あー、だめだ、俺、お前に彼氏とかできたらソイツのこと殺しそう。」

「何言ってんのよ、」








女が笑う、男も笑う、








そして今日もまた、お互いが存在する場所が幸せ溢れる空間となる。

















(いっそ俺と付き合えよ)
(いいわね、ソレ)
(え?)







===========

初ナミゾウ×ナミ\(^O^)/

書きたかったんだ!どっちもわがままで気分屋なくせに、お互いにだけはとことん甘いんだよこの兄妹は!←

お互いが居るだけで幸せだよ、そんなお話でした



今後の展開は皆様の妄想力にお任せ致します(^q^)








.





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -