波に呑まれて消える声 | ナノ








『じゃあな』

『またな』







そう言って笑ったけど。

否、ちゃんと笑えてたかどうかも怪しいけど。






いつだって、一番伝えたい想いは、胸の中。



一番奥の、深い深い所にしまい込んだ。












波に呑まれて消える声
















『 好きだ 』









いつだって伝えたい気持ちは、きっと一言で十分だった。人に自分の想いを伝えたいと思うのは初めてで、ましてや『俺はお前が大好きだ』なんて。



きっとルフィは太陽みたいな顔で「知ってる!」って笑うんだろうけど。そう言われると分かっていても尚、お前に言いたい。




大好きだ、と。







視界の許す限り、ルフィをこの目に焼き付けた。ルフィと育ったこの島を、最後に見たルフィの泣き出しそうな笑顔を。


船は無情にもどんどん進んで、俺とルフィに距離を作る。




ルフィ、泣くな、兄ちゃんはもう、お前の涙を拭ってやれる距離にいねぇんだから。








「笑え、ルフィ」




呟いた言葉は震えていて、これじゃあ説得力ねぇな‥と一人零れる苦笑い。


「どうしたんだ?」と自分を見上げてくるルフィは、もう側にいない。














小さな布団に、二人。


今は、小さな船に、一人。



自分の腕を枕に、横になって空を見上げる。組んだ足をぶらぶらさせて、思う。

『ここはなんて無の空間なんだろう』




見渡す限り海しか見えなくて、勿論ルフィも見えなくて、波の音しか聞こえない中、ルフィの泣き声が聞こえた気がした。






否、泣いているのは俺だった。







後悔してる訳じゃない、死ぬのが怖い訳じゃない。海賊になると、決めたのは俺。





ただ一つだけ欲を言えば、愛しい愛しいあの存在と、片時も離れることなく過ごしたかった。








帽子を顔に被せ、流れる涙の暖かさを知る。



ルフィが関わる世界は、総てがこんなにも暖かい。



















***













本音を告げたら、エースが困るのが分かるから。だから心の中で叫ぶんだ。









『 行かないで 』












頭にぽんっと手を置かれ、その重みと温かさに泣きそうになる。


「元気でな」って微笑むエースの顔が、泣き出しそうな、でも優しい、なんて言うかすっげぇ複雑な顔してて、、俺も今エースと同じ顔してんだろうな、って。








おれ達らしく。

「お前は笑顔が一番似合う」って、エースが言ってくれたから。

最後は笑顔で別れた。






つもりだったけど。上手く笑えてたかなんて、聞くまでもなく。

それはそれはヘタクソな笑顔だったに違いない。











エースの乗る、小さな船が、見えなくなるまで見届けた。

見えなくなっても、ずっとずっと、エースが進んだ海を見ていた。





今日が雨なら良かったのに。今日も明日も、明後日も。ずっと、嵐だったら良かったんだ。



そうしたら、「今日は危ないから明日にしろよ」って。






エースを引き止める理由ができるのに。




エースのいない家に帰って何をしよう?鍛練だって冒険だって、もうエースがいなくちゃつまらねぇ。






「ばかエース‥」









おれを泣かせるやつはエースがやっつけてくれるって、これじゃあエース、自分のこと殴らなきゃダメだぞ。






次から次へと溢れ出る涙に、エースの存在の大きさを知った。


涙を拭ってくれる優しい手が遠く離れた現実は、おれをどうしようもなく不安にさせる。








一緒に行きたいと、連れてってと、ただ一言が言えなかったのは、自分自身も“夢への覚悟”を知っているからで。





それでも自分には特別甘い兄だから。どんなワガママも許してくれる兄だから。



たった一つ、これが最後のワガママでいいから、






ただ、まだまだ共に過ごしたかった。






「エ゙ー、ズの、ばかやろう」









止めてくれる人のいない涙は、こんなにもとめどなく溢れてくるものなんだ。














『まーた泣いてんのか、泣き虫ルフィ』


『違っ!泣いてねぇっ!』


『あー、ハイハイ、分かったから鼻水拭けよ』














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