2 | ナノ

「寒くねぇか?」



「ん、平気」


「なら良かった」







私は今、月灯りが照らす砂浜をエースと二人、歩いている。








「会いたくなかった」と言った私に返ってきた返事は、「少し歩くか」だった。


何を言っているのかと反論する隙も与えてもらえず、肩に抱えられ砂浜に降ろされる。



こういう強引なとこは、本当にルフィにそっくり。仕方なく私は、エースの一歩後ろを歩いている。


と、言いたいのだけど。



エースが私に歩幅を合わせるおかげで、しっかりとエースの隣をキープしてしまっている。









「何がそんなに楽しいの」


「?」



「顔。笑いっぱなし」






言ってからしまった、と思った。エースは身体ごと私に向かって、腕の先を炎に変える。

二人の顔が、照らされ、揺れる。



「ナミの隣を歩いてんだぜ?嬉しいのは当然だろう?」




炎の光で照らされたエースの顔が、“兄”の顔ではなく“男”の顔だと気付いて、泣きたくなった。










いっそ泣いてしまいたい。


わんわん泣きじゃくって、エースは困り果てればいい。そして「面倒臭い女だな」と見捨ててくれたらいい。



そうは思うのに、泣くことはプライドが許さない。我ながら本当に面倒臭い女。

心の重りが、どんどんどんどん重くなって押し潰されそうになる。苦しい。何で。










アラバスタで二人出会って、確かにお互い恋をした。共に過ごした短い時間、それは自惚れなんかではなかった。



なのにエースは。あまりにもあっさりと消えてしまった。「また会おう」と。




身体を巡る喪失感。夢と言うには、あまりにも気持ちが大きすぎて。確かめるには、あまりにも現実味が無さすぎた。





気のせいだったのだ、全て。あいつの熱い視線も、自分のこの気持ちも。

全ては私の勝手な勘違い。そう思って、言い聞かせて、今日までやってきたのに。









「何なの、何で今さら私の前に現れたの、何で忘れさせてくれないの、“私に会いに来た”って何?!私がどれだけ会いたいって思ってもあんたはいなかったじゃない、今更何なのよ!」

「‥ナミ、」




私がどれだけ辛かったか、この男は分かっていない。どれ程の涙を流してここまで来たと思ってるの。





「‥エースとなんて、出会わなきゃ良かった、そしたらこんなに苦しくなることもなかった、「ナミ」































「え、、なに、」





抱きしめられている。




そう理解するのに、五秒はかかっただろう。




「何、してるの、エース?」



私の話、聞いてた?



私、あんたに酷いこと言ったのよ。出会いたくなかったって。何でそんな私を抱きしめてるの。












「抱きしめて、って顔してた。」



「え、」





すとん、と言葉が心に響く。

今になって、本当に狡い男だと思う。抱きしめてほしい、触れたい、会いたい、心からそう願った時、一度も叶えてはくれなかったくせに。

忘れようと決心した途端に現れて、私の心を掴んでく。





背中をぽんぽん、と優しく叩かれる度、心が軽くなっていく気がした。反対の手が頭に置かれ、その温もりが心地好い。


重くなった心を溶かすのは、あまりにも簡単だった。



「あんたって、ほんと狡いわ」

「ははっ、お前に嫌われないように必死なんだよ」



「よく言うわ、散々待たせといて」







男らしい熱い胸板に顔を埋め、広い背中に手を回す。能力のせいか高い体温に、エースがここに居るんだと実感して泣きそうになる。

どうやら私はこいつのことになるととても弱くなってしまうらしい。




背中に回された腕にぎゅっと力が篭る。

私も抱きしめ返すと頭に置かれていた手が頬へと降りてきた。




名前を呼ばれて顔を上げる。優しい笑顔と共に降ってきたのは瞼へのキス。

閉じた瞼から、涙が零れた。



「泣くんじゃねぇ、ナミ」

今度は目尻へのキス。涙の跡を辿るように続いて頬へ。そして唇へ。













もうこのまま溶けてしまいたいと思った。熱を持ったエースの身体から、エースの想いが伝わるような感覚に脳が痺れる。熱すぎる体温が、心地好いとさえ感じた。


このまま焦がしてくれればいい。また夢だったのかと疑えないように、跡にしてくれればいい。恋焦がれて。あんたに焦がれて。そしてあんたに焦がされるなら、とても幸せだとさえ思う。









息苦しくなってエースの胸板を叩くと、漸く解放された唇。再び抱きしめられ、エースの声が直接脳に響いた。脳が痺れる感覚と共に、安心感。




「ナミ、俺と出会って良かったか?」


「えぇ、すごく幸せだわ」

「俺と、出会ってくれてありがとう」


「じゃあ私は、好きになってくれてありがとう」







額に一つ、キスが降ってくる。






この温度を、声を、私は忘れない。夢だと疑わないように心に刻んで。



また離れるけど、海が私たちを繋いでいる。同じ海の上、また会える。




月灯かりの下、きっともうエースを想って泣くことはない。抱き合う恋人達を、月が優しく照らしていた。












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