刻んで、繋いで | ナノ



アラバスタで得たもの。





ビビの笑顔。



国の未来。



制限されることの無い雨。


勇気。



愛する仲間との絆。









あいつとの出会い。

















刻んで、繋いで


















今まさに上陸しようという時に、あいつはいきなりやってきた。何の前触れもなく、本当にいきなり。

“自由”という単語がピッタリ当て嵌まる。そういうやつなのだ。これはルフィにも言えることだけど。






「たまたま船が見えたんだ」



そう笑顔を振り撒くあいつを見て、私の心はずんと重くなった気がした。





いきなり過ぎる訪問者に、上陸の準備など忘れルフィは大いに喜んだし、初対面のロビンは「あの火拳が」と興味を示した。

いきなりの客人は弟とは似ても似つかない程の丁寧な挨拶を私達一人一人にして回った。

「久しぶりだな」と一人一人に声を掛けている姿は大人の余裕を醸し出していて、それでいてひどく“兄”の顔で。


私の頭を一度だけくしゃ、と撫でたエースは今、ルフィを抱きしめている。

否、ルフィに抱き着かれていると言った方が正しいのだけれど。

その光景はとても微笑ましいもので、ルフィの笑顔はいつもの軽く三倍は輝いていると思う。

そんなルフィを見て、私も笑みが零れるのだけど。





「準備でもするか」そう呟きサンジくんはキッチンへと向かった。その横顔はひどく優しく、とりあえず錨を降ろしておこうと動き出したウソップ達も皆、笑顔だった。

ルフィの、と言うか、仲間の素直な笑顔を見れば嬉しいし、皆、エースを歓迎しているのだ。


きっとそろそろ船長の提案により宴が始まる。







心の中に溜まった何かが、また重くなった気がした。













***












「あの態度はあんまりじゃねぇか?ナミ」



案の定開かれた宴の後。


見張りがてら甲板で海を見つめていたところに届く、低い声。




何となく、来るような気がしていた。



波の音しか聞こえない中、「ナミ、」と呼ばれても驚きはしなかった。





「酔いつぶれたんじゃなかったの?」



嘘。ちゃんと知ってる。本当は酔ってなんかいないってことくらい。






「こっち向けよ」

「嫌。」



背中に刺さる視線が、痛い。


見れない。見たくない。
視界に入れば入る程、心の中の何かはどんどん重さを増すから。


宴の時からエースを見ないように。それでいて、いつも通りに。無理などしてない、そう見えるように努力したのだ。





「なぁナミ、」



いつまでも動こうとしない私に痺れを切らしたのか、肩を掴まれ体を回転させられた。

掴まれた肩が、熱い。




「分かってんだろ?」



黒い瞳が、私を捕えた。





『何を』そんな台詞は出てこない。だって私は、エースの言いたいことを分かってしまっている。














「お前に、ナミに、会いに来た」












そんなこと分かってる。知ってる。耳を塞いでしまいたいと思った。何も聞きたくない。逃げ出したい。


そう思うのに。




真剣な瞳は、私が逃げることを許さない。


自由なはずの身体は、金縛りにあったかのように動けない。



先程掴まれた肩が、今でも熱くて。













「‥私 は、もう、










会いたくなかった 」












泣いているのは、心だろうか。








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