5 | ナノ










「懐かしいわね、こうして二人で飲むのなんて」











息が、詰まる思いだった。





本当に。本当に何でもないことかのようにナミさんが俺に向かって微笑んだ。


情けなく一瞬跳ねる、俺の心臓。



「そ、だね」




薄っぺらい笑みを口元に浮かべて、吸い始めて間もないタバコをくしゃりと灰皿で揉み消した。ヤメロ、深く考えるな。俺の中の“俺”が俺に向かって忠告している。


これ以上は、キケンだ。










目の前には無防備に酒を飲み続けるナミさんが。思い出されるのは確かに過ごした二人の日々。

髪、唇、瞳。区別のつかない記憶と現実。考えるな、考えるな。思い出すな。


幸せすぎる記憶は時に残酷で、危険なんだ。







どれ程の時が過ぎた?懐かしむほどの時が経ったか?どれ程の時が過ぎたら、懐かしいと、そう思えるのか。俺とナミさんでは違うんだよ、ナミさん。


少なくとも俺は、昨日のことかのように鮮明に。



愛しさ、幸せ、そして最後に後悔、虚無感。色んな感情が、混ざり合えない幾つもの感情が。

胸を締め付ける。










「“懐かしい”ってナミさん、そんなに月日経ってねぇよ?








俺たちが別れてから。」










原動力は悔しさか。何なのかは分からないが醜い感情であることだけは確実だ。

何で俺を置いて先へ進むんだ、とか。俺を思い出にしないで、とか。




あぁ、クソ格好悪ぃ。








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