8 | ナノ




「ギンと話しをさせて!」

乱菊の悲願の声が響く。

藍染はやれやれ、とでも言いたげに身を一歩引いた。








***















「・・・ギン、」

乱菊が目の前に立つと、ギンの表情に微かにでも感情が戻ったような気がする。何を考えているのかまでは分からなくても、何か思うことはあるのだろう。






「乱菊に、幸せになって欲しかったんよ。」



ギンの声が、純粋すぎる狂気を紡ぐ。
いつだって乱菊のことを一番に考えるのはギンの悪い癖だと、ギンに注意したのはギンが乱菊を庇って怪我をした時だっただろうか。
綺麗な思い出は、現実を見る者には時に残酷で、その残酷さに涙が零れた。



「乱菊、まだ夢も叶えてへんやろ?ウエディングドレスだってまだ着てへんやん」





ギンと一緒にテレビの中に映る幸せそうな二人を見て、確かに乱菊はギンに向けて『ウエディングドレスを着て、かわいいお嫁さんになるの!』と熱弁したかもしれない。

細かな情景も思い出せない、遥か昔の遠い過去。


「そんな昔のこと、の為に?」

「乱菊のことは何でも覚えてる、て言うたやろ」



視界が滲むのを止められない。ふざけんじゃないわよ、と絞り出すように発した言葉は次は間違いなく、ギンに向けた言葉だった。




「泣かんといてや乱菊。僕動けへんし、涙拭ってやることも出来ひん」


ギンの顔を見たかった。きっと今は、どうやって私を泣きやませようかと困った顔をしているに違いない。

皆はその表情の違いに気付かないかもしれない、それでも私が気付けばそれでいいとギンは笑った思い出。
思い出は走馬灯のとうに次々と頭を巡り、胸が締め付けられるような苦しさに涙が止まらない。



「なんで・・っ」

そんな夢、ギンと一緒じゃなきゃ意味が無いじゃない、なんて伝えるにはあまりにも遅すぎる。どうしたって、いくら長生きしたって、私一人じゃ叶わない。

ギンが死んでるなら、そんな夢に意味なんてないのに。本当ならば、ギンが死ぬ前に伝えるべきだった言葉がある。


伝えたいのに、零れる嗚咽に邪魔されて言葉が上手く出て来ない。




「どこの馬の骨とも分からん奴に乱菊の命を終わらせられるくらいなら、僕が終わらせようとしたんやけどね。ほんまは生き続けるのが一番やけど、ごまかし続けるのももう限界やし、」



ギンが喋り終わるのを見計らって、藍染が一歩前へと踏み出した。


「ギン。お喋りの時間はもう終わりでいいかい?












―運命には、背くものじゃない。」
















腰に刺さる刀を取る。光る切っ先。飛び散る紅。




















視界を埋める、ギンの胸。





ギンの胸には短刀が刺さっていて、その柄を握る私の手が紅に染まって震えている。

「乱、菊?」

「ギンを、独りにはさせない」



別段驚いた様子もなく、興味深そうにこちらを眺めているだけの藍染を一瞥し、つくづく気味の悪い奴だと心の中で悪態を吐く。




「ギン、痛いでしょう?ごめんね」

「乱菊に殺されんなら、本望や」

「私もギンと一緒に逝くから」



ギンを刺したその刀を、己の首筋へと当てる。ずっと一緒よ、その言葉と共に刀を引く。

一瞬だけ、ギンの寂しそうな顔が見えた気がしたが、反転していく視界の中、最期に見たギンの表情は微笑んでいるように見えた。














***








「なかなか、面白いものを見せてもらったよ」



男の胸に刀を突き刺し自らの命を絶った女の魂は、流魂街へと逝くことは許されないだろう。となれば、逝く先は地獄のみ。




「共に地獄を、か。」


目の前に倒れる二人の、哀しくも純粋な二人の男女を見て、男は興味深げに呟いた。











Is this happy ending?

It is happy ending

for them ―….





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