7 | ナノ



ギンと同じく“斬魄刀”に“死覇装”。

すぐにこの男も死神なのだと理解した。


第三者のその男は、ギンに「藍染隊長」と呼ばれていた。










***
















「その子かい?君が大罪を犯してでも守ろうとした子は。」


藍染の眼が、乱菊へと向けられる。嫌な汗が背中を伝う。


虫も殺さないような酷く穏やかな雰囲気とは裏腹に、言葉や笑顔の奥底に理解できないような狂気を感じる。




「おっと、“守る”という言葉には語弊があるかな。正確に言えばギンが必死になって“殺そうとしている子”、だね。」


この男の微笑みを、私はどこかで見た事が無かっただろうか。

嘔吐感を覚えるようなこの男の微笑みが、ギンと被るのは何故だろう。



「ど、ゆうこと?」


「おやおや、ギンから何も聞いていないんだね」

「乱菊は何も知らんでええ!」




ギンの声に反応するように、ギンへと視線を向けた。今になって気付いたが、ギンは身動きがとれないらしい。恐らく、ギンの身体を囲む帯状の光のせいだろう。酷く冷静な思考回路とは裏腹に、乱菊の手は小刻みに震えている。


藍染の言葉を待っている自分と、聞きたくないと耳を塞いでしまいたい自分が居る。無論、震える手では耳を塞ぐことさえままならない。







「ギンは罪人として、極刑が決まっている。君にも分かり易い言葉で言うと“死刑囚”といったところかな。」


「何故?」その言葉は出てこなかった。そんな乱菊の心情を知ってか知らずか、藍染は話しを続ける。




「君の命は、本来ならば五年前に終わっている。でも君は生きている。それは何故だと思う?ギンが殺したからだよ、君を迎えに行くはずだった死神達をね。仲間殺しは大罪だ。それでもギンは君を担当する死神達を次々と殺し続けた。それも全て、君を長く生かす為だよ。」


そこで藍染の眼がギンへと向けられた。乱菊もその視線を追うようにギンを見つめたが、ギンの表情から心情を読み取ることは出来ない。
私は今、どんな顔をしているだろう。



「君はこの五年間、何も知らずに普通の生活を送っていた。恋人や友人と楽しい刻を過ごしただろう?君の過ごした五年間は、幾人もの死神の犠牲の上に成り立っていた。そして今、ギンも罪人として裁かれようとしている。私には君の命がそこまで価値のあるものには思えない。




ギンの行動には、理解に苦しむよ。」







ふざけるな、というのが素直な感想だった。
ソレは目の前にいるこの男に向けたモノか、未だ表情一つ変えないギンに向けたモノか、何も知らずに過ごしていた自分に向けたモノなのか。或いは、世界へ向けたモノかもしれない。






「私はこの五年間、ギンの行動に強く興味を引かれた。君の為にどんな犠牲をも厭わないギンの行動は、僕からすれば全てが“無意味”だった。見ていて実に愉快だったよ。」




「ギンは、どうなるの?」

自分でも驚く程低い声が出た。
死神なら、死んだその後も苦痛の無い世界で、そんな一筋の希望にでも縋りたい気持ちだった。


「地獄行きさ」という藍染の声により、そんな希望も脆く散ったのだけども。




「ギンに待つのは、苦痛と孤独のみ。だけど君は安心していい。僕が流魂街へと送ってあげるよ。」





藍染の言葉は、乱菊の耳を素通りしていくだけだった。

気付けば、手の震えは止まっている。




ギンは黙って二人のやり取りを眺めている。







誰が正義か、誰が悪か。

どの行いが正しくて、どの行いが間違いか。

信じることは弱さか、逃げか、強さか。

純粋さ故に狂気が生まれる、と言ったのは誰だったか。







少なくとも三人に、迷いなど無かった。





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