5 | ナノ



「暑いからって布団蹴ったらアカンよ、乱菊」

「だって暑くて寝れないんだもの」

「そう言って布団蹴って寝ては、お腹冷やして夏風邪引いてたやん。」

「ちょ、もう忘れてよ、そんなことは」

「忘れる訳ないやん、覚えとる。乱菊のことは全部」





掠れた声が、耳元で響く。











***












抱き締められて眠ることには、まだ慣れない。

寝苦しくなるような暑さの中、抱き締められる腕の暑さは不思議と嫌じゃなかった。



こんな風に抱きしめられる行為そのものに慣れていない訳ではない。
もういい年だしそれなりの経験もあるのに、高鳴るこの鼓動は、相手がギンだからだろう。



「小さい頃は、折れちゃうんじゃないかと思ってた」

「ん?」

「腕。ギンの。」




枕変わりにするには、あまりにも心許なかったギンの腕。
あまり体重をかけると折れてしまうのではないかと不安になったギンの腕は、今ではしっかりとごつごつとした安定感を乱菊へと与えてくれる。


「筋肉、ついたのね」

「だって僕、男の子やし。」

「声も低くなってる」

「声変わりもしたしなァ。」

「なんか、色気も、出て来てるし」



さっきから煩い鼓動の原因はコレか、と乱菊は納得した。
男にしては色白な肌だとか、細く長い指だとか、薄い唇だとか。記憶とは結び付かない“成長したギン”に、調子を狂わされている。






ギンは一瞬だけきょとん、とした顔をしてすぐに意地の悪い笑顔になった。




「なんや乱菊、そそられた?」

「べ、別にそんなことっ」

「可愛いなぁ、乱菊は」




頬に伸びてきた手を受け入れて、ちゅ、と軽く触れる唇を受け入れた。
懐かしい、と思う。

それと同時に、酷く泣きそうになる。





確実に大人になっているギンを、乱菊は知らない。
乱菊の成長過程も、ギンは知らない。

やっと再び巡り合えた二人は、人間と死神という何とも可笑しな関係で。




「乱菊?」

「・・・っ」

「乱菊、泣かんといてや」




あやすように背中を撫でる左の掌も、ぽんぽんと頭を撫でる右の掌も、小さく震える乱菊を包み込んでくれる胸板も、瞳も、唇も、何もかも。






ギンはきっと、乱菊の涙の理由を理解しているだろう。
ギンが理解していることを、乱菊も気付いているだろう。


それでも口にしてしまえば、終わりが近づく気がして言葉の変わりに涙だけが溢れた。






「ギン、行かないで・・」


やっと言えたのはそれだけだった。


「大丈夫」「安心しぃ」「僕はここに居るから」
乱菊の頭を撫で、髪、額、頬、瞼、あらゆるところにキスを降らし、優しい声で言葉を紡いだ。それは、乱菊が眠るまで休むことなく続けられた。








泣き疲れたのか、規則正しく寝息をたてる乱菊は起きる気配がない。
昔より遥かに大人びた、けれど幼き頃の面影も強く残るあどけない寝顔を見てギンは微笑んだ。





「ごめんな、乱菊。













還る時は二人一緒に、な。」








耳元で囁き、頬にかかる髪を耳へとかけてやる。


一見愛しいものを慈しむようなその微笑みは、見る人によっては“狂気的”ではなかっただろうか。




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