この距離を愛でていこう | ナノ


目立つ子だな、とは思ってた。


たまに話しかけられて、柄にもなく緊張して、笑いかけられてドギマギして。






真面目に授業を受けてる姿とか、大口開けて笑ってる姿とか、注意されて可愛らしく拗ねてみせる姿とか。

コロコロと変わる表情を、こんなにも近くで見るようになったのはいつからだろう。









「やばいかも、私。」





自習時間。

当たり前のように後ろを向いているナミがポツリと呟いた。



「ん?食い過ぎか?」

「ばか。あんたと一緒にしないでよ」






呆れたようにわざとらしく溜め息を吐いて、「何でもないわ」と笑う。
無理して作った笑顔だと分かったけど、そんな顔すらかわいいと思う。









何がやばいのかは分からないが、「このままじゃまずい」とナミは言う。







俺は訳も分からず、ただ聞き流すことしか出来なかったけど。



深く問いただすことはできない、そんな関係で俺達は成り立っている。









( おれこそ、やべェだろ )







ナミに言うつもりなんてカケラもないけど、積み上がったこの気持ちは、もう完全に末期なんだと思う。







**





「いいよなー、お前。」

「何がだよ」

「ナミと仲良くてさ。男としては羨ましすぎるだろ!」

「、は?」










ナミとの関係に、羨望の眼差しを向けられることにも、もう慣れた。


初めこそ、ガラにもなく慌てふためいて顔を真っ赤にして否定したモンだけど。








可愛い、綺麗、素敵 。

こんな単語達が全て当て嵌まってしまう女、他にいないんじゃねェかと思う。
俺だけじゃなくて、皆がそれを認めてるんだからすげェ話だ。






スタイルも格段にいい奴だから、年頃の男がナミを“そういった目”で見ることも当然と言えば当然で。



俺はそれが、少し嫌だったりする。










「別に、お前等が思ってるような関係じゃねェよ」





そしてふと思う。


この関係に、名前をつけるならば相応しい言葉は何だろう?








***






「あたし達の関係?」

「そ、俺達の関係。」








帰り道。

並んで歩く俺達の関係って?










「んー、仲の良い友達、じゃありきたりよね‥」



肩が触れるか触れないかの距離。

ナミは顎に手を添えて自分達の関係についてぶつぶつと考え込んでいる。





「恋人、ってわけでもないし‥」





友人と呼ぶには深く、恋人と呼ぶにはまだ足りない。

恋と呼ぶには照れ臭く、愛と呼ぶ覚悟もない。




「エースはどう思うの?」


「考えたってわからないからナミに聞いたんだよ、」


「そもそも、これって答えを出さなくちゃいけないことなの?」




大きな瞳で俺を見上げる。







「一緒にいたいから一緒にいる。それだけじゃダメなの?」






小さな心が答えを見つけた。







「ハハッ、すげえ殺し文句」

「なっ?!変な勘違いしないでよバカエース!」


「わかってるよ、ほら、帰るぞ」



くつくつと笑いながら足を進めれば、ちょっと待ちなさいよ!と言いながらナミが隣に並ぶ。






手を握れるけど、握らない。

肩を抱けるけど、そうしない。


キスだってできるけど、俺たちはそんな関係じゃない。





うん、いいかも、こういうの。








(今はまだ、な。)










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