ずるいずるいずるい!
アレルヤはずるい。
わたしより30センチも背が高いし、わたしより手があったかいし、怖い顔のはずなのに笑うと優しそうだし、実際優しいし、なのに強くてスポーツ出来て、頭が良くて、しかもマルチーズが好きだなんて可愛いし、言い出したらキリがない。
とりあえず、ずるい。
今日だって色んな人と喋ってる。
人気者、ずるい。
小テスト学年5番だって。
半端って思うかもしれないけど何百人中5番なんて、ずるい。
バスケしたらいっつもパス回ってきて綺麗にシュートするの。
ずるい、ずるい、ずるい。
しかも今日は誕生日だからいつもより色んな人がいっぱいアレルヤのところに集まるんだ。
ずるいよ、わたしの居場所がないじゃない。せっかくプレゼント持ってきたのに渡せない。
ずるいな。
みんな。
アレルヤの近くにいる。
ずるい。
やめた。帰ろう。
アレルヤから目線を外す。アレルヤ見てると汚い感情ばっかり出てくるんだもん。
ずるい。
あ、まただ。
ため息を一つ。
ガタンと椅子を鳴らしてわたしは立ち上がった。
鞄を肩に掛けて人だかりに背を向ける。
ガラっと戸を開いても誰も気にしない。
後ろ手にその戸を閉めてわたしは足を踏み出した。
あーあ、プレゼントどうしよう。
肩にかけていた鞄を手に持ってぶーらぶーらと揺らす。
空を仰いだら薄い雲がオレンジに染まっていた。
うっすらと浮かんだ白い月。
少し視線をずらすとくすんだ白い校舎。
あの中で今頃アレルヤはみんなにチヤホヤされながら笑ってるんだ。
ずるい。
つい、また、この三文字が浮かんで自嘲してしまう。
それに、アレルヤはチヤホヤされて喜ぶような人間じゃないし。
「ずるい。」
つい口に出た。ホント、何やってんだろう。
「何が?」
ビックリして振り返る。
なんで、なんで。
「アレルヤ?」
ニコッと微笑む彼がそこにいた。
なんで、言おうとした口はパクパクと動くだけで声にならない。
「なんで、って言うのはこっちの台詞だよ、全く。」
苦笑いしながら距離を縮められる。
目の前に来たアレルヤを見上げたら両方の頬をぐにっと摘まれた。
「うえっ…。」
「朝から話し掛けてくれないしさ、何の断りもなく帰っちゃうしさ、ビックリするよ。」
話ながら頬をぐりぐりしていたアレルヤは言葉を切るのと一緒に手を放した。
わたしは痛みから解放されてヒリヒリする頬をさすりながら、だって…と口を開く。
「アレルヤの周りずっと人がいたし…。」
「いつもそんなこと気にしてるの?」
「アレルヤの近くにいるとわたし汚いでしょ?」
「そんなことない。」
「だって…、だって…。」
ふっ、と笑ったアレルヤが両手を伸ばした。わたしはすっぽりとその胸に包まれる。
「僕がなまえのそばにいたい。いてほしい。それじゃ、駄目かな…。」
「だ、め…じゃない…。」
アレルヤの脇腹辺りをぎゅうっと掴む。
「プレゼントも、ちゃんと用意してる。」
つまらない嫉妬が邪魔したの。ちっぽけなプライドがわたしをつまらなくしたの。本当は押し退けてでも貴方の隣に居座って誰にも干渉されず、プレゼントとおめでとうを渡したかった。
下らない感情に流されただけなの。
ごめんね、ごめんなさい。
なんて、言葉には出来ない分、強くアレルヤの体を締め付ける。同じだけ彼もわたしを抱き返してくれる。
大好き、大好き、愛してる。
「あのね、」
「うん。」
何が?って、
「アレルヤのことが好きすぎて、ずるい。」
伝わったかな。伝わらないかな。
でもアレルヤが笑ってるから、それでいい。