ティータイムにパラソル
「今日はアールグレイかい?」
「うん、アップルティーと迷ったんだけど…。」
「ふふっ。じゃあ次はアップルティーにしようか。」
レースのカーテンから光が漏れるこの部屋で、日頃の喧噪が嘘のように緩やかに時間が流れる。
紅茶を煎れたばかりのポットとカップ、ソーサーを乗せたトレーを持ったわたしは座っていたアレルヤのすぐ横のテーブルの上にそれを乗せた。
「今日は小春日和ね。昨日までの寒さが嘘みたいだわ。」
「そうだね。あ、じゃあ今日は庭でお茶にしない?」
彼がそう幸せそうに笑うものだから、そうね、とわたしも頬が緩んだ。
アレルヤが庭へ出る窓を開けてどうぞ、とわたしを促した。
「ありがとう」
彼が目を細めた。わたしはトレーを持って低い桟を跨ぐ。
庭に出ている青銅のテーブルにカタンとトレーを置くとアレルヤも窓の引き戸をカラカラと引いて庭に出てきた。
「本当に暖かいや。」
「ね。ちょっと陽射しがキツイぐらいかも。」
そうだね。アレルヤが笑った。
何の鳥かはわからないけど、のどかに鳴いた鳥の声が庭を行き交っていた。何処にいるんだろう。木を見上げたら低く照る太陽が目を刺した。
「うっ。」
思わず声を漏らしたら、アレルヤにどうしたの?と顔を覗きこまれた。
「ちょっと眩しくて。」
そう言うとアレルヤは、ああ…と苦笑しながら身を引いた。
「じゃあ、パラソル出そうか。」
パラソルなんてあったっけ。むしろ出してもどうやっと立てるんだろう。
むう、と考えていたらアレルヤは円形のテーブルの真ん中に指を当てた。
スッとその指を動かしたと思ったらカタと蓋だったものが取れ、真ん中に小さな穴が出来た。
わたしはビックリしてアレルヤを見上げるけど、当のアレルヤは何事もなかったかのように、まぁ彼にとっては何事でもないのだろうけど、平然と「パラソルどこだったっけ」と窓を開けて家の中に入っていった。
わたしはもう一度円卓の真ん中に出来た穴を見つめた。
「知らなかった…。」
アレルヤが来るまでの間、わたしはそれを嵌めたり外したりを繰り返した。
「あったよ!」
アレルヤがカーテンの間から顔を覗かせた。
そして少しくすんだ白い大きな傘を広げ、柄を真ん中にスッと入れた。
「おお…。」
頭上に広がる白に目を刺す日差しが遮られた。
「この方がいいね。」
「そうだね。」
陽だまりの中、小さな陰に二人。
頼もしい肩に頭を預ければ小さな笑い声。
目を閉じて聞こえるのは葉の擦れる音、鳥の囀り、彼の呼吸とわたしの呼吸、きぬ擦れ、トクトク穏やかな鼓動。
「なまえ?」
夢に旅立ちかけたわたしの耳を心地好い声音が揺らした。
「ん?」
アレルヤがふふっと笑った。
「なんでもない。」
「なによ、もう。」
アレルヤが笑うからわたしも笑う。
「ねぇ。」
「ん?」
きゅっと手を握った。
「ありがとう。」