プライドが許さない


「お前さんも意地張ってないで、いい加減言ったらどうなんだ?」

「い、や、よ!」

いーっと子供みたいに前歯を見せたわたしに、ロックオンはわざとらしくため息をついた。

「なまえだって奴が自分のこと気にしてることわかってるだろ?」

わかってるだろ?って言われてもあれをわからないでどうしろと言うんだ。

わたしは窓の外に目を向けて、はぁ、とため息を落とした。


わたしの今の悩みは、まぁ、なんだ。俗に言う「恋患い」というやつなんだが、状況が酷い。あまりに惨い。
自業自得って言われればそうかもしれないけど、でも、我が儘になりたいのが女子だったりするじゃない!
なんてね、本当はその相手の方が乙女で困ってるんだ。
その相手っていうのがアレルヤ。あのアレルヤだ。優しくて、物腰が柔らかくてとっても温厚。なんていうかいい人の代名詞みたいな奴だ。
その調子でもうちょっと思い切りがあればいいのに。
いや、思い切り自体はあるか。
うん。
でも、ね…。

「やっぱり、言うより言ってほしいもん…。」

そう零すとロックオンはやれやれとばかりに息をついた。

「そんなに重要か?」

「重要!」

「俺的にはだなぁ、折角明日はアレルヤの誕生日なんだからプレゼントはわたしーなんて言っ…て…、悪い悪い冗談だ、冗談!だからそんな目で俺を見るな!」

本当最悪だこの人いい年して何考えてんだ。大体あんたはそれで嬉しいかもしれないけどアレルヤはそんなんで喜ばないわよ。

わたしはまたはぁ、と息をついた。




解決策なんて考えるだけ不毛だ、とロックオンと別れたあとのことである。

「あ、あの…、なまえ!」

アレルヤに話しかけられた。
なんだ、お前は。頬なんか赤く染めちゃってわたしよりよっぽどかわいいじゃないか。いかつい体付きに鋭い眼光。なんでそんな男からピンクのオーラなんか見えるんだ。おかしいじゃないか。

「なあに。」

つい無愛想に応える。

どうせいつもみたいに今日は暖かいね、とか寒いね、とか雲が綺麗とか梅が咲いたねとかマルチーズ見たんだよかわいいよね、とか、どうせそんなことなんでしょ。

「あ、明日…遊びに、とか、行かない?」

「はいはい、良かっ…た…わ。ん?」

「明日、遊びに行きませんか!」

ぎゅっと目を閉じて顔を赤くしたアレルヤはなんていうかこっちが恥ずかしくなるぐらい真剣に緊張してて、思わずわたしも頭に血が昇ってくるみたいに熱くなる。

「う、ん。」

なんとかそう搾り出したら、本当!?とアレルヤが目を輝かせた。
嘘なんか、つかないよ。
そう言ったら奴は嬉々として待ち合わせの場所と時間を口にした。

「いいかな?」

「うん。」

明日、楽しみにしてるね。
アレルヤはそう微笑んで背を向けた。
後ろからでもわかるほど楽しそう。

なんでこんなわたしにそこまで熱を傾けるんだろう。気持ち気付いてるのに何もしないで駄々ばっかこねてるのに。きっとあいつはいい奴だから考えもつかないんだな、わたしの陳腐な我が儘になんて。

わたしはまたため息をついた。




そのあとわたしはプレゼントを買って帰った。
もちろん遠足前の子供みたいにそわそわして寝れないだとか緊張して寝付けないだとかそんなことはなくてぐっすりと寝た。
ええ、そりゃあもうぐっすりと。

「ん…んぅ…ふあ…。今なんじだ…九時、半…か。…九時半!?」

ヤバイヤバイ、これはヤバイぞ!
なんでって待ち合わせは10時で、家から待ち合わせ場所までは20分かかる。仮にも好きな人と会うのに10分で支度は無謀すぎる。
ええい!でも、やるしかない!
そう決意し、朝ごはんまで抜いて用意した結果。

「くっ…間に合わなかった…!」

最悪だ最悪だ最悪だ!
アレルヤすっごい楽しみにしてたのに!
って、いうか自分自身意外と楽しみにしてたっていうか期待してたっていうか…
とりあえずちゃんと行きたかったのに!

時計を見たら優に10時は過ぎている。
しょうがない、ダッシュで行こう。それしかない。ちょっと高いヒールのパンプスを履いちゃったけど、行ける、大丈夫。
そう思って駆け出す。
ああ、やっぱり足ジンジンしてきた。運動靴の方が良かったかなあ。いやいや、今日はこれ履きたかったんだもん。
やば、なんか目熱くなってきた。顔ぐちゃぐちゃになっちゃうかな、慣れないメークなんてしなければ良かったかな。
なんか全部が空しくなってきて足が止まる。嫌だ、涙だけは出したくないよ。

素直になれない。嫌だ嫌だ嫌だ。


「なまえ?」

「う、そ。」

顔をあげてみた。
息を切らせたアレルヤがいた。

「遅いなって、心配になって…。」

来てみて良かった。
アレルヤはそう笑った。

こんなとこで一人で立ち止まって俯いてるなんか、変に決まってるじゃない。なんでそんな風に笑うのよ。もっと何してんだって聞いてもいいじゃない、なんでそんな安心しきった緩い顔で笑ってるのよ。

「歩ける?なまえ。もしつらかったら…」

「行くわよ…。」

アレルヤが言うのを遮るように呟く。

「え?」

「行くわよ!楽しみに、してたんだから…。」

ふい、とそっぽを向いたらアレルヤが一歩近づいた。

「ね、その前にさ。」

ん?アレルヤに向き直る。

「好きです、付き合って下さい。」

直球。

あれ、なんでよ。あんたはわたしよりずっと恋する乙女みたいにかわいいのに。そのはずなのに。
真っすぐな瞳に逸らせなくなる。ああ、そうだ、わたし好きなんだ、アレルヤが。

「おそいわよ、ばか。」

「えっなん…なまえ、泣いて…!」

「うっさいわね!」

誰の所為だと思ってんのよ。

たくましいその体にしがみつく。
ぅえ!?なんて慌ててたアレルヤだけど、ぎゅうと抱きしめてくれた。

「なまえ。」

「ん?」

「最高の誕生日だ。君のおかげだよ。」

「何言ってんのよ。」

へへっと二人で笑う。

あ、そうだ。しがみついていた腕を離して鞄を探る。

「アレルヤ、はい、これ。」

キョトンとされた。

「お誕生日おめでとう。」

「ありがとう。」



これからもそうやって笑ってね。
わたしはどうも意地を張っちゃうから。
でもそんな風に幸せそうな笑顔を見たら、その表情が感染ってしまうわ。
でもそんなのはやっぱりわたしには合わないから貴方がずっと笑ってて。



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