女はね、クリスマスには煩いのよ?


「ねぇえー。ハレルヤぁ。」

「んだよ。」

「今日何の日だかわかってる?」

なんて、上目遣いで見られる。

「キリストの誕生日だろ?」

ノエルから目を逸らして答えると、むぅ、と不満の声。

「なんでそれを祝わなきゃなんねぇんだ?あぁ?」

「あんたハレルヤなんて名前しといて…!」

「じゃあなんだ、お前は。そんな見たこともねーオッサンの誕生日祝うのかよ。」

「オッサンってあんた…っ!罰当たるわよ?!」

「ハンッ。」

必死の形相を鼻で笑ってやったら、声にならないのか、わなわなと震えている。

が、少しすると肩をストンと落として大人しくなった。


「と思ったら何してんだお前…。」

ガチャガチャと物音がするから振り返ってみると、ノエルがラフな格好から着替えて化粧道具を取り出している。

「何って…。言っても聞いてくんないなら強行しかないと思って。」

えへっなんてウインクしてきた。
そんな様子を見てハァとため息を落とす。

「え、行くでしょ?」

手を止めて目を見開くノエル。

「お前なぁ…。」

軽く睨みながら言う。
あいつは、ありがとうハレルヤ!流石!なんて叫ぶと鏡に向き直った。

それを聞いて着替えようと立ち上がった俺は大概こいつに甘いんだと思う。

お前彼女に何もしねーのか、なんて聞かれて、気が向いたらな、なんて答えたのにすっかり流された気分だ。
いや、ノエルによってそういう気になったと言うべきか。

ゴタゴタとクリスマスについて言われた覚えがある。


「ねー、ハレルヤぁ。」

「なんだよ。」

「欲しいものがあるの。」

「あぁ?」

「今日欲しいの。」

「何がだよ。」

いつもの調子で言い返す。
するとノエルが、もう!と声を荒げた。

「今日なんの日かわかってるの!?」

いつの間に後ろにいたのか、大声で叫ばれ耳がキーンとする。

「うっせぇな!だからキリストの…」

「クリスマスだってば!」

ノエルがダンと足を踏み鳴らした。

「わーったよ。で?何が欲しいンだよ。」

「今日クリスマスだよ?」

「だから、わかったっつーの。」

「わかってなーい!」

何がだよ。
聞いても答えそうにないので必死に記憶を辿る。

なんで俺がこんなこと考えなきゃなんねーんだ…。

ふとノエルを見遣ると視線を落としていた。
その先を辿る。

ああ、そうかよ。

胸についた顎を掴んで目を合わせる。

「何すんのよ。」

「とっととそう言えってんだ。」

ぐいと左の手首をひいて腰に手をかける。
ひいた手の薬指に口づけをひとつ落とす。

「ハレルヤ…。」

「別に買ってやってもいいけどよぉ。今日じゃなくたって…。」

そういうとノエルがムッとした。

「何言ってんのよ。」

そしてスルリと腕を抜けた。

「別に欲しいのは指輪だけじゃないんだから。」

そういうと体を反転させて鏡へと歩きだした。

「服も欲しいしネックレスでしょ、カバンでしょ、ブーツでしょ、マフラーでしょ、それから…。」

まだあんのか、と口を開きかける。

「それから…っていうかハレルヤは全部ついて来てよね。」

背を向けたノエルの顔は見えないがその髪から僅かに覗く耳が赤い。
だから、そう早く言えってんだ。全く。


「女はね、クリスマスには煩いのよ?」




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