星空の下で甘ったるい言葉を囁いて


「アントン。」

待ち合わせ場所に行くと珍しく彼の方が先にいた。
いつもなら1時に待ち合わせて2時や3時に来るのに。

「雪を降らそうという粋な計らいかしら?」

「なんやそれ。」

アントンはそう言って笑った。

いや、でも待ち合わせから30分でいるのはすごいと思う。


「ほな行こか。」

歩き出した彼に腕を絡める。

「うん。」


浮かれた街に混ざるように人込みで足を進める。
女の人のヒールの音が行き交う。負けじと鳴らす踵。

コツンコツン

笑い声、話し声、融和する音。

見上げた顔は僅かに赤い。

「なんやの、そんな見つめて。」

「バレた?」

アントンは小さく笑った。

「当たり前やん。」

「顔、赤くない?」

「そ、そんなことあらへん!寒いだけや。」

「ふぅん?」

少し意地悪そうに見つめた彼は、敵わんわ、とマフラーに顔を埋めた。

---

「で、結局いつもの公園?」

すべり台と砂場とブランコ。いまわたしたちが座っているベンチ。あとは芝が広がっているだけのイルミネーションなんてカケラもない公園。
確かにわたしも空が開けたこの公園が好きではあるが、彼は困るとここへ来る。

「だってここしか思いつかへんかったんやもん。」

まぁ、いいけど。
息をふぅ、と吐き出す。

「この公園も懐かしいね。」

「そうやなぁ。」

「覚えてる?」

そう言うと、ん?とアントン。

「ロヴィがさぁ、ブランコ漕いでて調子乗って落っこちてさぁ。」

「あぁ、そんなこともあったなぁ。」

二人で向き合って笑う。


「ねぇ。」

「ん?」

「寒い。」

「せやんなぁ。」

ホンマ寒いわぁ、と手に息をかける。
そうじゃなくて、空いた右手が寂しいなんて、この人は言わなきゃわかんないか。
鈍感。
なんて面倒な人を選んだんだ。

「でも、しょうがないか。」

「何が?」

首を傾げるアントンに、何でもない、と答える。

「手、繋いで。」

「ええよ。」

触れた手に、ギュッと力が入った。

「冷た!ノエルの手冷たいなぁ。」

「アントンが暖かいの。」

「そうか?」

「うん。」

繋いでるのとは反対の手はポケットにコートのポケットに突っ込む。

サァと風が凪いだ。
煽られた木々はザワザワと鳴いた。

「なぁ。」

いつもより固い声音に、ん?と応える。

「俺は離すつもりないからな。」

震えた手は、気の所為なんかじゃない。

「ノエル。」

「うん。」


例え今わたしたちを照らしているあの星が気の遠くなるような昔に消えていたとしても

例え今わたしたちが立っているこの地球が近い未来に失われてしまったとしても


これだけは決して朽ちないように

そっと、願いを込めて



「愛しとるで。」




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