16th game
「小早川とモン太見てて気になってたんだけどさ」
「どうしたの?」
話し合った後はそのままベンチでお互いの紹介に花を咲かせていた。セナ達と誠凛との関係、泥門、秀徳両校のこと、そして緑間と付き合うことの大変さという名の高尾の愚痴。最後の話については緑間が大人しく高尾に喋らせている訳がなく、再びコントと暴力の境界にあるやり取りをセナ達の目の前で繰り広げていたが打ち解ける上では大きな効果を発揮した。そうして一通り話し終えたところで高尾から質問が飛んだのである。
「何で二人はアメフトやろうと思った訳?馬鹿にしてるんじゃないけどさ、アメフトってもっとゴツい野郎がやっているイメージなんだけど」
まあ、やりたいと思ったからやっているんだろうけどと高尾は苦笑いした。緑間はその隣で無言でお汁粉を飲んでいる。よくもまあこの季節にあったなと言いたいところだがそれは今は関係ない。
セナとモン太はそれぞれ過去を振り返った。最終的にはチームと個人の目標を持ってアメフトをしている二人だが、入部は酷いものだった。その時の記憶が甦り顔が青ざめる。
「い、いやぁ、に最終的にはやりたくてやっているんだけど……」
「そ、その入部は……なぁ?」
「ん?」
二人の様子が変わったことに高尾と緑間が揃って首を傾げた。
「上で雷門が言っていたがそれなりに誇りを持ってやっているのだろう。恥ずべきではないと思うが」
緑間が言葉を促す。確かにそうだが、当時の自分達からしたらとても恐ろしい記憶なのだ。言葉が詰まるのもしょうがない。しかし、高尾と緑間が知りたがっている以上は応えてあげたいとセナは思った。モン太に目配せして互いに頷いた。
「じゃあ、僕から」
「小早川からね」
手を挙げて軽く息を吸う。セナは少しだけ緊張した。
視線の先では高尾が聞く姿勢に入っていた。
「その、アメフト部にとっても優しくてアメフトに熱心な先輩がいて、その人から話を聞いたんだけど試合ビデオ見て恐かったから主務をやりたいって言ったんだ」
「へぇ、じゃあ小早川は主務なんだ。納得納得。詰まるような理由じゃないじゃん」
「いや、選手だよ」
「へ?」
どういうこと?と言う高尾に続きがあるんだとセナは遠くを見た。そう、始まりは十文字達に絡まれたところを栗田に助けられたのがきっかけだ。だが、問題はその次の日の朝。
「次の日の朝にアメフト部の悪魔みたいな先輩に拉致されて縛り上げられてマシンガンに撃たれて選手やれって言われたんだ」
「…………」
「…………訊いてごめん」
空笑いするセナに二人が同情の視線を向けた。訊きたいことも色々増えたが、このままじゃセナの傷を更に抉ることになりそうだと高尾は口を閉じた。
黙ったセナに次いでモン太が次は俺な、と手を挙げる。詳しい経過はともかく、何となく結果が高尾と緑間の頭に浮かんだ。
「セナに誘われてぐらついたのが大きいけど、その日の夕方に悪魔みたいな先輩にいきなりアメフトボール投げつけられて、捕ったらボールかごに閉じ込められて部室に連行された」
やっぱりか。高尾と緑間は二人揃って項垂れた。キーワードとして挙がっている『悪魔みたいな先輩』という人物について大変気になったが、色々地雷な気がする。
しかし、遠い目をしていたセナとモン太は自慢気な顔になり続けた。
「きっかけはこんなんだけど、アメフトをやっていることに後悔はないよ」
「俺はキャッチNo.1!セナは最速最強RB(ランニングバック)が目標だからな」
初めはアメフトをやる気なんて更々なかった。むしろただただ恐かった。しかし、試合を重ね勝ちも負けも経験してアメフトの楽しさを知った。勝ちたいと、プロになりたいと思った。
だから、きっかけをつくってくれた栗田とヒル魔にセナはとても感謝している。当時はとても恐かったが十文字達にも。
セナとモン太の変わりように高尾と緑間は変な顔をしていたが、最後にはそっか、と言って笑った。
「世の中色んなきっかけがあるもんだなー。小早川達の話聞いてたらなんだか動きたくなってきた」
高尾が背筋を伸ばす。時計を見ると針は休憩終了まで残り30分を切っていた。モン太とセナは慌てて立ち上がる。午後の準備をしなければ。
高尾達に事情を説明しようとすれば、分かっている様子で緑間が先に口を開いた。
「準備だろう?マネージャーは俺達選手と違ってまた別に忙しいからな」
「裏方だけど欠かせない存在だしね」
午後からも世話になる、と緑間は淡々と言った。隣では高尾がニヤニヤとしている。緑間の言葉にやはり優しい人だ、とセナは思わず笑顔になった。
「ありがとう。こちらこそ午後からもよろしく」
「サポートMAXで頑張るからよ!お前らも全力MAXで頑張れな!」
そうして互いに手を振り、それぞれの観客席へと四人は帰った。午後からは午前と違って最初から全校が揃っているからもっと大変だろう。それでもセナは楽しみな気持ちになった。
「キャッチNo.1に最強最速かぁ。じゃあ真ちゃんが目指すは最強No.1シューターってとこ?」
「ふん、言われるまでもないのだよ。それにそれだけに俺は収まるつもりはない」
緑間は眼鏡のブリッジを上げて高尾に返した。冷静沈着ながらも変わり者な我らのエースはそれだけでは満足できないらしい。だが、あの緑間ならその先も実現できそうな気がするから不思議だ。
「真ちゃんらしいねぇ。やっぱ目標はでっかくってやつ?」
「秀徳というチームがNo.1の座に着かなければ例え俺だけがNo.1と言われようとそれは違う」
高尾の足が止まる。ここ最近で一番に彼の思考は停止した。急に黙った高尾に気付いた緑間が怪訝そうに振り向いた。
「どうしたのだよ。さっさと準備をするぞ」
全くこの男の癖に女王様のようなエースは唐突にこちらがびっくりするようなことを平然と言うのだから堪ったものじゃない。だが、彼は大真面目に言ったのであって、こちらが指摘でもしないかぎり到底その最上級のデレには気付かないのだろう。指摘をし、敢えて彼を狼狽えさせるのも悪くないが、ここは気付かなかった振りをしよう。
「うんにゃ、何でもない。さて、午後からも張り切ってやりますかねー」
彼がこちらに期待してくれているのならば自分は喜んでそれに応えよう。それに高尾だって秀徳をNo.1にしたい気持ちは緑間に負けていない。
そんなことを考えて高尾は緑間の後を追った。
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130210
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