一話 | ナノ




※サッチは隊長兼料理長設定

白ひげ海賊団における食事は戦争だ。それなりに時間を分けているとはいえ、一定の時間帯に狭いダイニングへ1600人近くが入れ替わり立ち替わりするのだから堪ったものじゃない。
入団したばかりの者だと席に座るタイミングを見失い、立ち食いや外で景色を眺めながら食べる者や、はたまた食事を取りに行くことすら出来ず世話焼きの先輩クルーに助けてもらい漸くご飯にありつける者が多い。

さて、話は変わるが本日から白ひげ海賊団には客が新たに来た。それも珍客。だがその客達は客にも関わらず大半のクルーには歓迎されていない。
極めて少ない穏健派は『オヤジの決定だから』と割り切り、最低限の節度と警戒を持って客達に接している。ちなみにこれはあの取り引きの場に居合わせた隊長達や一部の年長クルー達である。もちろんサッチ自身も納得がいっている訳ではないが白ひげが指示した以上は受け入れるつもりだ。
そして残りの過半は過激派、という訳ではないが白ひげの言葉を受け入れながらも殺気まみれの視線を客達に向けていた。『喧嘩を売っていいのはやられたマルコとエースだけ』という条件がなければ今頃暴動でも起きているかもしれない。

船を汚し、戦場を混乱させ、大事な家族の一人であるエースとマルコを倒したアマテラスとイッスンという不可思議な二人組(二匹組?)。出会いがそもそも最悪なのだ。オヤジの指示に従い船に上げればマストを真っ二つにし、話の最中には寝、最後は船長室で大爆発である。これで好感を得ろというのならばサッチは言った奴を病院に連れて行く。

だが、搬送候補はいた。

「ワンコロおめぇ体の割に食べるなぁ!これも超旨いんだぜ。サッチ!そこのヤツ取ってくれ!」

「…………ほらよ」

「ん、さんきゅ。あぁっ!?テメェ全部取んなよ!!明らかに今の空気は分けっこだろうが!」

「お前はそいつの友達か」

多数の人間が食事を摂る一角にその光景はあった。
テーブルを占めるのは皿の山。エースの食事時には当たり前のように見かける光景だが、今回は規模が違った。いつもの倍である。
節約のために基本的に一回の食事に作る全体量をサッチ達は決めていた。そのため事前に仕込み、準備しておけば特別忙しいこともないのだが、エース級の大食らいが増えれば話は別だ。

「そんでお前はどうしたらそんなに食べれるんだ」

身を屈めてテーブルの下からエースの隣を覗く形で視線をずらせば、現在船内で話題沸騰中の例の客人……客犬アマテラスがガツガツと料理を食べていた。一皿を食べ終える度にひと吠えしてエースに知らせ、その皿をエースが回収してテーブルに敷き詰められた料理を新たにあげる。
サッチの記憶が間違っていなければ一時間ほど前に彼らは敵対していたはずなのだが。

「なぁエース」

「ん?なんふぁ(何だ)?」

「コイツら敵だよな?」

サッチがそう言えばエースは手を止めこちらを見る。今しがた仕事を終え、お腹が減っているサッチだが、その膨らんだ頬と散乱する皿を見るだけでお腹は一杯だ。
エースは手を止めたまま少し間を空ける。どうやら彼なりの意見をまとめているようだ。しかし、未だに咀嚼している辺りが食にウエイトを置くエースらしかった。

「まあ、喧嘩を売りゃ敵になんだろうが普段はオヤジの客だしな。昨日の敵は今日の友だっけか?そんな言葉もあるし、おれとワンコロは今はメシ友」

「ふーん」

口に溜まったものを全て飲み込みエースは答えた。
エースらしい考え方だとは思う。もしこれがマルコならば、彼はアマテラスとは何がなんでも一緒に食事はしないだろう。そんなマルコは今日の晩はこの食堂すら訪れず部屋で食事を摂っているのだから徹底している。楽観的なエースと神経質なマルコの違いがありありと出ていた。
そういうものかと結論を出し、サッチはテーブルに並べてある料理の一つを取り、遅い夕食を始める。今はあっさりしてしっかり栄養の摂れるものが食べたいから冷製パスタにした。

「でもおれもサッチに気になることがあるんだけどよ」

「あん?何だよ」

フォークに巻きつけたパスタを一口運んだところで今度はエースから声がかかった。スプーンでこちらを指し、口からエビフライの尻尾が飛び出ている様は大変行儀が悪い。バリバリと咀嚼して尻尾も口に収めてエースは言った。

「普通にコイツの食いたい分だけメシを出すとは思わなかった」

「あぁ、それな」

アマテラスは客とはいえどほぼ敵対勢力。普通の一人前を出すのならともかく、いくら大食らいであってもわざわざエースレベルの一人前を出すのはサービスしすぎだ。エースと同じことを思っている者は多く、さきほどからもちらほらと疑問の囁きが周囲からサッチの耳に入っていた。
サッチは一つ溜め息を吐き、次いで軽く息を吸う。恐らく、いや、確実に笑われるだろう。不貞腐れ気味にサッチは答えた。

「賭けに負けたんだよ」

「はぁ?賭けぇ!?いつだよ?」

「この犬の正体について何となく話し合った時にだよ」

――大穴狙いで神様とかだったり……。

――もしそうだったらあの犬にお供えして天界に帰れとでも祈ってやるよ。

そう、船長室に入る前にクルーと行った何気ないやりとり。サッチも冗談のつもりだった。
だが、蓋を開けてみれば彼らは異世界の神様とその付き人。まさかである。
サッチはいい加減な性格で周囲に知れているが、約束は期限に遅れようが最終的にはきちんと守る。神様というのを信じた訳ではないが約束は約束だ。
そんな間抜けな賭けについて詳細を話せば、いつもなら大爆笑するはずのエースは口を半開きにしてサッチを凝視していた。

「神様?このワンコロが?」

「らしいぜ。嘘かホントかは知らねぇけどよ。なぁ、えーと……い、い」

「イッスンだィ。人の名前くらいきっちり覚えろってんだトウモロコシ頭」

「…………」

今まで沈黙し、米粒を食べていたイッスンに話を振れば、彼は辛辣にサッチに言葉を返した。どうやら先の取り引きでの仕打ちを引き摺っているようである。

「すげぇな!神様と闘ったのはおれ初めてだ!!」

そんなイッスンとは裏腹にエースは興奮した様子だった。白ひげ海賊団内でも屈指の冒険好きなエースがそんなファンタジーな話題に食いつかない訳がなかった。すげぇすげぇと連呼しながらアマテラスを撫で回すその姿は飼い犬と飼い主にしか見えない。しつこいようだが彼らは敵対しているはずである。

「なぁ!お前神様だったら何かすげぇことできねぇのか!?」

「エース、お前なぁ……」

その『すげぇこと』でズダボロにされたことをお前は忘れたのか。ここまで楽観的だと呆れるしかない。最早馬鹿の域だ。
おい、と流石にサッチが注意しようとしたところで大変聞き覚えのある音が聞こえた。何かが出現する音が三回。そして導火線から散る火花。
伏せろぉ!という叫び声とドタバタと食堂から飛び出して行く足音。オチまで読めたサッチは冷や汗を流して後ろを振り向いた。

人ほどの大きさの爆弾が3つ。つい先程船長室で大爆発を起こした物と同じ種類だった。

「エーステメェ、バカヤロォォォォ!!!!!!」

明日の朝飯とおやつ抜きだクソボケ!とサッチが叫べばえぇ!?とエースが泣きそうな顔で席を立つ。泣きたいのはこっちだ。
二度とアマテラスと同じ席で食事を摂らないと固く誓ってサッチは本日二回目の輝玉の餌食になった。

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130205

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