十四話 | ナノ


拾肆

足元には白い狼と跳ねるのを止めた小さな光る存在。蛍の仲間かと思えば、正体はコロポックルだという。そして狼は神様。これだけ聞けば誰もが発言した者に医者を紹介するだろう。もう少し乱暴にいけば、一発殴って目を覚まさせるという手もある。
だが、白ひげはどうにもこの存在をただのファンタジーや狂言として笑い飛ばすことが出来なかった。
船を一瞬で黒塗りにして大豪雨を呼び、直後には大破した敵船が嘘のように直った。おまけに花の咲く大砲。そして水上を走る犬。グランドラインだからという馬鹿みたいな理由づけもここまでいくと難しい。
極めつきは異常とも言える一般常識の食い違い。最早『住んでいる世界が違う』と結論づけるしかなかった。頭がイカれているという皮肉ではなく現実として。

「で、チビスケ達はこれからどうするつもりだ」

「どうするってェ……、ナカツクニに帰る手がかりを探すしかねェ」

「なら船に乗せてやる」

「…………は?」

「オヤジ!?」

サッチ達が目を剥く。コロポックル、イッスンといったか、彼は白ひげ見てを固まった。種族や体は違えど人間に近い存在であることが反応から分かる。

「ア、アマ公、オイラ耳が壊れたかもしんねェ。空耳が……」

「だから手がかりが見つかるまで船に乗せてやると言ったんだ」

「オヤジ!どうしちまったんだよ!!」

再び白ひげがそう言えば今までにないほど隊長達がざわつきだす。二人の家族がやられたのにも関わらず、その原因を船に置こうというのだ。いくら、彼らが敬愛する存在の判断であったとしても、はい分かりましたと受け入れられる話ではなかった。

「マルコとエースがやられているんだぞ!?」

「何もコイツらを仲間にするって話じゃねぇよ」

話を聞け、と一言言えば周りが黙る。彼らが不満を押し込めているであろうことを考えると白ひげは少し申し訳ない気持ちになった。
イッスンに目を向ければ小さすぎて表情は全く分からないが彼は唖然としているようだった。その後ろには体を丸めて寝ている白い狼アマテラス。そのマイペースさに笑いたくなる。あの犬撃ち殺してぇ、と物騒な呟きが聞こえるが今は事を起こさないだろう。

「マルコとエース……さっきテメェらがやった二人だ。聞くには一回海に落としたのにわざわざ助けたそうだな。理由は何だ」

「助けるも何もコイツは喧嘩っ早いが命は絶対奪わねェ。今回もなかなか派手にやったがあの二人の体に傷はねェはずだィ」

「そういえば……」

イゾウが何かを思い出したようだ。どうしたと訊けば彼は口を開く。

「エースの野郎なんだが……」

「オヤジィ!」

突き破らんばかりの勢いで扉が開いた。その先には息を切らしたマルコがいた。白ひげを見て一瞬マルコは安堵した表情を見せるが、その前で楽に伏せているアマテラスを目にすると途端にその瞳に殺気を宿らせた。

「てめぇ、よくもさっきは……」

「オヤジィ!!」

マルコを巻き込んで今度はエースが室内に飛び込んできた。再生の炎をもつマルコはともかくエースの体には傷や痣がひとつも見当たらなかった。そういう意味かと白ひげはイッスンの先ほどの言葉を理解する。

「神様だから人を傷つけるわけにゃいかねぇってか。こいつらも舐められたもんだな」

「それはちょいと違う!」

白ひげがそう言えばイッスンはいきなり跳ね上がった。勢いに任せて飛び込んだはいいが状況が分かっていないエースとエースに巻き込まれて倒れているマルコの姿がイッスンの必死さと正反対で何だかおかしい。マルコの体から青いオーラがチラリと見えるがその怒りの矛先は話の後でエースに向かうのだろう。

「何をしようがアマ公の力は妖怪以外に傷をつけることは出来ねェんだ。つっても炎や雷の焦げやら氷の霜はついちまうが、都合の良いことにいつの間にか治っちまうんだ」

そこの二人がいい例だィ、とイッスンはやっと立ち上がって並んだエースとマルコを指し示した。なんだテメェ、また喧嘩売ってんのかとエースがイッスンに威嚇する。

「エース、おめぇ何でやられた」

「……何かすっげぇいい気分になって気付いたら氷漬けにされた」

悔しげな表情でエースが話す。白ひげがエースを見つめれば負けちまってすまねぇと呟き、今度は一気に沈んだ。その体には凍傷ひとつ見当たらない。確認のためにイゾウに視線を向けると彼はコクリと頷いた。

「マルコ、エース。こいつらにリベンジしてぇか」

「当たり前だろ!」

「…………」

声を上げて返事をするエースに対してマルコは無言。だが、その顔には悔しさと次は負けないという決意がありありと出ていた。

「決まりだな」

全ての視線が自身に集まる。イッスンは疑いと緊張を、サッチやイゾウ達は不満を乗せた眼差しを向ける。マルコとエースは状況は読めていないがサッチ達の様子から悪い予感を感じているようだ。アマテラスはいつの間にか昼寝を止め、こちらを見ているが考えが全く分からない。

「チビスケ達の手がかり、帰る手段だな。それが見つかるまで必要ならこの船に乗せてやる。客人扱いだ」

「オヤジ何言ってんだよい!?」

先ほどのサッチ達のようにマルコが声をあげる。だが、決定事項には続きがあった。

「ただし、幸い何もなかったとは言え大事な船とおれの息子二人がやられてるからな。テメェらが生活の中で喧嘩を売られようがぶちのめされようがおれは関知しねぇ」

つまり、行く宛もなく困っているようだから船には乗せてやるが、身の安全は自分で守れということ。そんなめちゃくちゃな取引をイッスンが受け入れるわけがない。

「お、おっさんそれは提案じゃねェ!ただの脅しじゃねェか!!」

打って変わってイッスンは真っ赤に輝く。そんな話納得できるかってんだィ!とイッスンがアマテラスに振れば狼は大きく一つ吠え、返事をした。まぁ受け入れるわけがないかと白ひげは口角を上げるが、再びイッスンが驚愕する。

「ふふふ船に乗るゥ!?アマ公本気で言ってんのかァ!!?寝過ぎて脳ミソ溶けちまったんじゃねェのかおめェ!!」

これには白ひげも思わず口が半開きになった。グランドラインの特徴を説明した上でこの船に居ざるおえない状況に事を運ぶ予定だったのだが、この惚(とぼ)けた顔の狼は想像以上に肝っ玉が据わっているらしい。
もう勝手にしやがれェ!とイッスンは腹いせにアマテラスの顔に向かって体当たりを繰り出すが、見事にくわえられ悲鳴を上げた。 得体のしれない敵かと思いきや、どうやら自分はかなり面白い出会いをしたらしい。目の前で繰り広げられるやりとりに白ひげは笑いを堪えられなかった。

「グラララララ!!なら話しは早ぇ!今日からテメェらは白ひげ海賊団の客人だ!」

「ほ、本気かオヤジ!?コイツらが客って!?」

やっと状況を理解したエースが足元に駆けつけ、アマテラス達を指差す。マルコやサッチ達はもちろん不満顔だ。何人かは諦め顔もいるが。

「勘違いすんなよ。コイツらは客だが寝床と食いモンをやるだけだ。エースとマルコはリベンジしてぇって言ったからな。好きにやれ。後でてめぇで直すなら船で派手にやっても良い。さっきも言ったがやりすぎなきゃおれは関知しねぇ」

程度が分かんねぇほどテメェらはガキじゃねぇだろ、と言うが何人かはジトリとした目で白ひげを見る。だが、それも次第に苦笑いに変わった。

「まぁ、オヤジの判断だしな。何かあるに違ぇねぇ。それにあのワンコロにやり返せるんだ。ありがてぇよ」

「オヤジだしな」

「正直最初はオヤジが洗脳されたかと思った」

「それはおれも思った」

エースの言葉を皮切りに口々に話し出す。戦う時には容赦しないが切り替えが早いのも白ひげ海賊団の良いところだ。こんな自分についてきてくれるのだからありがたいと思う。

「チビスケ、犬っころ、紹介がまだだったな。おれぁエドワード・ニューゲート。周りからは白ひげと呼ばれている。そしてここはおれの家族……白ひげ海賊団の船、モビーディック号だ」

歓迎するぜ?と締めれば、悲鳴を上げるイッスンをくわえたままアマテラスは元気に吠えた。

そして、早速マルコの覇気を込めた蹴りが繰り出され、アマテラスの前に急に現れた花火へと突っ込み大爆発を起こし、『今回のことでは船長室での私闘禁』というルールが追加されるのはすぐ後のことだった。

こうして世界最大の海賊の元で居候する小さな島国の神と、もっと小さな妖精絵師の話が始まったのである。


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130122

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