ひったくり退治 | ナノ


妖怪ジェット小僧

※二部後設定

「今日は疲れたなー」

「俺、家帰ったら風呂入ってすぐ寝るわ」

「明日は休養日だしゆっくり休んでね、みんな」

今日、誠凛は校外練習に出ていた。練習自体は3時前に終わり、それから久々に皆でご飯を食べようという話になったため、一時間ほどみんなでわいわいしつつゆっくりと練習後のご褒美を楽しんだ。携帯電話時間を確認すれば5時前の数字の表示。もう夕方だ。

「あれ、火神くん?」

「おぉ、小早川!」

店を出て体を伸ばす誠凛の面々に背後から声をかけられる。振り向くと、そこにはパーカータイプのウインドブレーカーを身に纏ったセナとモン太がいた。

「こんにちは、ランニングしてるの?モン太くんも一緒になのね」

「休日で午前だけ練習の日はいつも夕方に走るのが日課なんです。誠凛の皆さんは?」

「今日は校外だったの」

「そうだったんすか。お疲れ様っす」

リコの答えにセナとモン太が揃って一礼して労いの言葉を言う。いつも二人でいる様子にまるで兄弟のようだ、とリコは思った。そして、二人越しに自販機が目に入る。

「二人とも、ちょっと待っててね。火神くん、小早川くん達捕まえてて」

急に駆け出したリコを不思議に思ってその姿を目で追えば、その先には自販機。まさか、と思いセナとモン太は焦る。

「あああ相田さん!いいですよ!!ぐえっ」

「ほんとに申し訳ねぇんで、おい!火神!離せって」

リコの元へ行き、止めようと二人のフードを掴んで阻止するのは火神だった。モン太の文句にもカントクの頼みだから、とどこ吹く風という状態だ。おまけにいつのまにか前には降旗、福田、河原、黒子と他の誠凛新二年生の4人が立ちはだかる。いつもは見ていて楽しい先輩大好きっぷりもこんな時ばかりは恨めしい。
通してくれ、断る、という押し問答をBGMにリコはどれにしようか、と自販機に陳列された飲み物の見本を眺めた。
30秒ほど悩み、結局スタンダードにスポーツドリンクをあげることにしたリコは、財布を取り出すためにバッグを肩から下ろした。瞬間、何かに体を引かれる感覚。

「カントク!!」

「引ったくりだ!!」

耳に入るのは日向と伊月の声、そしてバイクのアクセル音。振り向いた時には、犯人を捕まえようとする火神達をスピードに乗せて悠々避けるバイクが目に入る。しまった、とリコが思った時にはもう遅かった。
しかし、同時に光速の脚も動き出した。

「セナ!!」

「分かってる!あっちの商店街前まで追い込むから先行ってて!!」

目にも止まらぬ速さでセナは駆け出す。そうしてあっという間にバイクとともに消えた姿に皆でポカンとしていると、モン太が急かした。

「早くセナと落ち合う場所に行くっすよ!」

「あ、ああ」

こっちの道が近いっすと走るモン太に焦りながらも困惑した様子で日向達は着いて行く。少し走れば、商店街に接した道に出た。もう少ししたらあいつらが来る、とモン太はしきりに辺りを見回していた。

「小早川くん大丈夫でしょうか。原付相手ですし」

「問題ねぇよ。あの先は駅伝で封鎖されてるから人しか通れねぇし警察もいる。そこを避けて逃げるんだったら手前の小道曲がってここに出るしかねぇ」

心配です、と黒子が呟けばモン太は鼻を鳴らして答える。そうだとしても原付とはいえ、走って追い詰めるという話は聞いたことがない。しかし、半信半疑で待っていると聞き覚えのあるエンジン音が響いた。

「来た!」

「マジで来やがった……」

音のする方へ向けば、もう手が届く位置までバイクの後方にピッタリと着くセナがいた。目を疑う光景に呆然と日向が呟く。犯人はセナというあり得ない存在に焦った様子でしきりにミラーと目視で後方を確認していた。だが、それは残念ながら幻ではない。そしてこちらの存在に気付いたセナと目が合う。
すると、セナは犯人の男の体を横から思い切り両手で押した。

バイクが横転する音と共に男の体とバッグが宙を舞う。危ない!と誰かが叫んぶと同時に日向の横にいた人物が駆け出す。それはモン太だった。

「キャッチMAAAAAX!!!!」

モン太の体が高く跳ぶ。火神とはまた違う『捕る』ことのみに集約された跳躍。

『光速の走り』と『空飛ぶもぎ捕りモンキー』。その呼び名の由来となった光景を日向達は目にした。

そして無事犯人も捕まりリコの荷物も取り返され、セナ達には感謝状が送られた。
だが、事件を目撃した人々の噂から尾ひれがつき『ジェット小僧』という新たな都市伝説が生まれ、噂を聞きつけた黄瀬からセナに「あんた何したんスか」と連絡が入ってお茶を吹くのはまだ先のことだ。


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