14th game
※緑間との関わりがかなり厳しい内容です。緑間ファンの方は気分を特に害される可能性あり。
公共の場で人に土下座をするのは人生初ではないだろうか。無言の相手の様子が恐すぎて顔があげられない。セナとモン太二人揃って謝罪の言葉を口にした。
「本当にすいませんでした!」
「…………」
「真ちゃん許してあげたら?」
朝のスポーツドリンクの件といい、謝り倒すことしかセナの頭には浮かばない。朝はうっかりしていたというのもあるが、先ほどのことについては他の選手達は二階にいるから多分大丈夫だろうという油断があった。完全にこちらが悪い。
「……投げたのはどっちだ」
「お、俺っす!本当にすいません!!」
背筋を正してモン太郎が素早く手を挙げれば眼鏡の男はジロリとモン太を見た。その様子にセナとモン太の間で緊張が広がる。
「朝といい、君は自分にコントロール力がないという自覚はないのか」
「う……、あ、あります!」
容赦のない問い掛けにモン太が怯みながらも堂々と答える。相手からすれば、分かっているのなら投げるなよと言いたいところだろう。
はあ、と眼鏡の彼はため息をついて眼鏡のブリッジを上げる。窓際で学校名のロゴが入ったジャージが風に揺られている姿が目に痛い。
「分かっているのなら投げるな。大体、わざわざコントロールが難しいアメフトのボールを投げるなど無知にもほどがあるのだよ」
ピクリとセナの隣でモン太が反応する。セナと眼鏡の彼のチームメイトの顔が引き吊った。
この流れはヤバい。横目でモン太を見れば、その目は据わりつつあった。だが、朝のことから眼鏡の彼は相当立腹しているらしくその厳しい口は止まらない。
「投げる力がないならボールに触るな。コントロールが求められる球技においてコントロールがないことは足手まといでしかない」
「真ちゃんちょっと!」
「モン太!落ち着いて!」
目に怒りを宿して立ち上がったモン太をセナは必死に制する。眼鏡の彼もチームメイトの青年の言葉で何かに気付いたようで罰が悪そうな顔をし、一言こちらに謝罪の言葉を口にした。
しかし、モン太は相手を睨み付けるのを止めない。
「……確かに俺はノーコンだ」
ポツリとモン太が絞り出すように話し出した。眼鏡の彼とチームメイトの青年が怪訝な顔をする。
「でもな、だからってあんたに球技全部を否定されるのは納得がいかねぇんだよ。俺にバスケの才能は全くねぇよ。けど、アメフトだけは、キャッチだけは誰にも負けねぇように努力してきた。セナやヒル魔先輩、デビルバッツのみんな、一休先輩に鷹も、バッド先輩も今まで闘ってきた奴らが認めてくれた。その人達からもらった称号を『ノーコンの野郎は球技にいらねぇ』なんて言葉で片付けられる筋合いはねぇんだよ!!」
モン太が言葉を荒げれば、ざわつく雰囲気に気付いた者達の視線がここに集まる。リコ達もこの騒ぎに気付いたみたいだ。
モン太はうつ向き何度か大きく息をして気を鎮めているようだった。そして、すっと顔をあげる。
「朝も昼も俺が迷惑かけたのに生意気言ってすいませんでした!」
一歩踏み出し、深く礼をしたまま吐き出すように早口で言い、モン太は眼鏡の彼に背を向けた。ちょっと頭冷やしてくる。セナとすれ違う瞬間にそう言って彼は階段を降りた。
「…………」
「…………」
残るのはとにかく気まずい空気と沈黙。何があったの?と駆けつけたリコがセナに訊くが上手く言葉に出来ない。
「緑間くん、教えてくれるかしら」
「ちょっと、ちょっと!カントクさん落ち着いて!あー……、なんつうかどっちも悪いってやつでさ。ね」
フォローに入り、こちらに同意を求めたチームメイトの青年の言葉にセナはこくこくと頷く。リコはきちんと話を聞くタイプの人間だが、この時点では眼鏡の彼こと緑間という人物が印象悪く見えている状態だ。
彼は本来被害者であるのだからそれはおかしい。
「あの、モン太と僕が朝から緑間さんに迷惑かけていて。謝った時に少し意見の食い違いがあったんです。元々の始まりは僕達なんです」
「でも真ちゃんの言い方もあれだったからこっちも悪いというか……」
「……その点では謝罪したのだよ」
緑間が苦々しげに言う。確かに彼の物言いは厳しいものだった。だが、モン太が緑間の言葉に激昂したように、緑間にとっても許せない何かを自分達はしたのではないか。例えば、コントロールについて。
「こんな時にいきなりですけど、緑間さんのシュートって凄いですよね。僕、あんな正確なシュート初めて見ました」
いきなりのセナの言葉に緑間はきょとんとする。そして再び眼鏡のブリッジを上げてしかめ面ながらも照れた表情をした。
「ほ、褒められることではないのだよ。あれは人事を尽くした結果であり必然のことだ」
モン太が長い積み重ねで絶対のキャッチ力を手に入れたように緑間は長い積み重ねで絶対のシュート力を手に入れた。それだけの違いだ。
先ほどの言葉も最低限のボールコントロールは身につけないといつかチームに迷惑をかけるぞという緑間なりの警告であって、本気で球技をするなという意味はなかったのだと思う。
それでもせめてこれだけは、とセナは口を開く。
「緑間さん、例えノーコンでもその人にとって得意なことが一つでもあれば、それはチームにとって大切な存在に変わると僕は思うんです」
投げれないモン太の代わりにヒル魔が投げ、誰も取れない代わりにモン太が捕る。力が弱いバックスをラインが守り、バックスはラインの守りの下、機動力を最大限に発揮する。自分達はそうやってきた。
それぞれの足りない部分を補うためにチームはあるんじゃないでしょうか、とセナが言う。緑間は黙ったままだ。
「僕はどうしてもチームメイトのモン太を贔屓してしまうんでこんな言い方になってしまいます。ごめんなさい」
モン太が落ち着いたら改めて謝る旨を伝え、何か言いたげな緑間とそのチームメイトの青年に一礼をしてセナはその場を後にした。
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130121
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