十三話 | ナノ


13th game

「昼飯昼飯ーっと。お、真ちゃんのジャージ乾いてんじゃん!」

高尾が観客席後ろの窓にかけてあるジャージ触って確かめてみれば、朝にはぐっしょりと濡れていたそれはすっかり乾いていた。緑間は埃を払う動作をしジャージを羽織る。

「真ちゃんってそうなったやつ着そうにないけど意外といけるんだ。結構大雑把だったりする?」

「汚れたわけでもあるまいし、そんなことにこだわっていると体を冷やして体調を崩すことに繋がりかねんからな」

時と場合によるのだよと緑間は言い、自身のエナメルバックに入れてある弁当を取りに向かった。ただ、着た理由としては今日のラッキーアイテムであることも含まれているのだろう。 高尾は午前中の練習のことを思い返す。ジャージを濡らした原因である少年達はなんと誠凛の女子高生監督が呼んだマネージャーだった。黒子達が良く知っているようだったため、春からの新入生を入学前から部活に手伝わせているのかと訊けばこれも驚いたことにあの小さな少年達は同い年だと言う。遺伝子の神秘とは凄い。
時間があれば絡んでみようかだなんて考えた高尾が観客席を見渡せば、誠凛と同じスペースで食事を片付け休憩を取っている彼らがいた。火神や木吉に囲まれているため尚更小さく見える。秀徳は少し長引いた合わせのために他の学校よりも少し遅い昼食だ。

「ねー、あの子達なんだと思う?」

「いきなり言われても何のことか分からん」

コンビニ弁当の封を開けながら高尾が訊くが緑間は冷たく反応し、黙々と食べる。日常生活にも人事を尽くすという彼の昼食は見るからに栄養バランスのよい手作り弁当だった。

「真ちゃん反応うっすいなー。そんなこと言って分かってる癖にさ。あ、それうまそ」

「だからなんのことか分からんと……高尾!お前は自分の分があるだろう!」

緑間のおかずを拝借しようとすれば彼は弁当を遠ざけて避ける。この一年を通して『あの緑間』とこれぐらいのやり取りができるようになったのだから人生生きていると何が起こるか分からないものだ。

「いやぁ、美味しそうだからつい、ってあれ?」

何かに気付いた様子の高尾に緑間が訊けば、あれ、と高尾は箸の先を一階の体育コートに向けた。とんでもなく行儀が悪いことに呆れながら緑間もそちらを見る。コートには朝には話に上がっていた少年二人がいた。もしかしてバスケをするのだろうか。あれほど小さいのだからどのようなプレイをするのか高尾は気になった。なんとなく某バスケ漫画の小柄な主人公を想像する。
だが、高尾の予想は見事に外れた。

「なんだあの手に持ってるボール。バスケットボールじゃないじゃん。ラグビーボール?」

緑間にボトルをぶつけた少年が持っていたのはラグビーボール。それをもう一人の少年に渡せば、少年はボールを持って走りその後は先を駆ける少年に投げた。

「あれはアメフトのボールだな」

「アメフトォ?何でまたそんなもん」

「俺が知るわけないだろう」

緑間は少年達を見て一度止めた箸を再び進める。アメフトのことは良く知らないがあれは屋外スポーツのはずである。そもそもアメフトとバスケの接点が分からない。いや、ひとつある。両方アメリカ発祥だ。

「アメフトねぇ……」

あんな小さな体でムキムキの男ばかりがいそうなスポーツをやっていたらいつか首が折れそうだな。そんな失礼なことを考えながら彼らから一度視線を外し、足元にエナメルを下ろして中身を整理する。館内にゴミ箱はあるが、出たゴミは自分達で持って帰るのが選手としてのマナーだ。

「なぁ、真ちゃん午後だけど……って、ちょ!」

ガシャンという音と共に唐揚げがひとつ高尾のバッグに転がり込む。折角整理したバックを漁り、唐揚げを見つけた高尾がわざと頬を膨らませて緑間に顔を向けた。かけてやる言葉はこうだ。緑間真太朗くん!お行儀良くごはんを食べなさい!と。多分無視されるだろうが。

「ちょっと!……あらぁ…………」

弁当に突き刺さったアメフトボール。どう狙えばそうなるんだというのが高尾が一番に抱いた感想だった。そして、飛び散るおかず。彼の練習着は再びジャージという盾が守ってくれたらしい。流石おは朝。緑間が信頼するはずだ。

コートの方を見れば、真っ青になった二人組。朝にボトルを緑間にぶつけた方の少年が顔だけをこちらに向けて万歳していた。つまり、あの少年は背中をこの観客席に向けた状態でこちらにボールを飛ばしたということだ。ある意味才能ではないか。

無言で震える緑間を横目にどうやって彼をなだめようか、と高尾の目は遠くを見つめた。

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130115

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