12th game
赤司から逃れるようにマネージャー業を再開しその後はタイマーにモップがけ、そして水分の準備と午前中は忙殺された。何かミスをして選手達に多大な迷惑をかけてしまうのではないかと戦々恐々に仕事をしたが、そんなことが起こることもなくあっという間に時間は過ぎて一時間半の昼休みに突入した。
「やっと昼休みだ!」
誠凛が陣取る観客席の一画で小金井がぐでんと体を椅子に預ける。まるで猫のような雰囲気を持つ彼だとその光景は微笑ましい。
日向や伊月に木吉、黒子といった他の者達もトイレに行ったり体を冷やさないようにジャージを着込んだりと各々のことをする。火神だけは余程腹が減ったのが早々と弁当を準備していた。
「お疲れ様、午後からもよろしくね」
モン太と二人で昼食をつついていると背後からぬっと出てきたのは二本のスポーツドリンク。驚いて振り向けばリコがいた。
「わざわざすいません。ありがたくいただきます」
「何かわりぃっす」
「それはこっちのセリフよ。貴重な休養日を割いてもらっているんだから」
二人が一礼して受け取ればリコが苦笑する。いえいえと謙虚にセナは返し、丁度のタイミングだとバッグから目的の物を取り出した。
「あの、これ知り合いから沢山いただいたんでお裾分けに持ってきました。練習の終わりにでも食べて下さい」
「あら、ありがとう!何だか申し訳ないわ。みんな!小早川くんからクッキーいただいたからちゃんとお礼言っておきなさい!」
リコがそう言えば様々な方向からかかるお礼の言葉。作ったのはまもりだが、セナは少し嬉しい気持ちになる。
「超うまいっすよ!なんせまもりさんの手作りっすからね!」
「早っ!!!?」
同じ時間に食べ始めたはずのモン太は既にクッキーにありついていた。恋の力は凄まじい。
まもりさん?と訊くリコに対し、俺の女神っすと目を瞑り自分なりに格好良い顔をするモン太。
「ああ、なるほど。片思いか!」
「!!!!」
木吉の気の抜けながらも鋭い読みにモン太はボンと顔を真っ赤にして爆発した。『片思いで肩重い』と呟いた伊月の口に黙れと言わんばかりに日向の箸に摘ままれたおかずが捩じ込まれる。当然咳き込む伊月だが、日向は何もなかったかのように箸を進めた。捩じ込んだおかずも伊月の弁当から拝借したものだから彼にはノーダメージだ。鉄平!とリコが怒ればすまんすまんと木吉は頭をかいた。
「ま、周りに何と言われようと俺は俺の気持ちを貫くだけっす……!」
「男らしいですね」
「そうか!?」
いやぁ、そうかそうかと黒子の世辞にモン太は調子を良くする。黒子の隣にいる火神は横目でモン太を眺めながらもクッキーを味わっていた。その隣にあるパンの袋の山が大変気になる。いつの間に食べたんだ。 そんなおかしいながらも楽しい昼食を済ませれば、モン太がリコに声をかけた。
「相田先輩、人が増えたらやめるんで下のコートかりてもいいすか?」
「昼休みだしかまわないと思うけどどうしたの?」
リコ同様にセナも疑問を持つ。すると、フッフッフとモン太は笑いながらセナを見た。
「セナ、俺は知ってるぜ。動き回る日向先輩達を見て羨ましそうな面してたのを……」
「嘘!?」
バレバレなんだよと笑うモン太。全く彼には敵わない。そう、セナはアップを見た時から始まり、アップ以上の激しい攻防をする試合を見ている間もアメフトをしたいという気持ちを引き摺り続けていた。彼は弱気で謙虚な人間だが立派なアメフト馬鹿なのだ。でなければ去年の夏の『死の行進(デス・マーチ)』だって意識の甘い人間ならまずやらない。
「何!?小早川くん、バスケに興味ある!!?」
「だったら今から1on1しようぜ!」
勘違いをしたリコと火神が興奮する。リコはともかく火神のは無茶な注文だ。仮にセナがバスケに興味を持ったとしても、彼はバスケ初心者である。恐らく前回の経験から初っぱなから容赦しないであろう火神とまともに『バスケの』1on1をすればトラベリングで即刻セナの負けだ。
「あー……、そっちじゃなくてセナがしたいのはコッチだよな!」
モン太がエナメルバッグから出したのは楕円形のボール。なんでとセナが言えば俺ボールの感覚忘れたくねぇからいつも持ってんじゃねぇか、とモン太の答えは少しずれていた。セナが訊きたいのはそっちではなく、なぜ分かったのかということなのだがこの様子じゃ訊くだけ無駄そうだ。
「なぁんだ残念……。まあ、良いわよ。午後からも大変だしお昼くらいはリラックスしてちょうだい」
怪我に気を付けてね、というリコに見送られセナとモン太は階段を降りた。
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130112
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