十一話 | ナノ


11th game

※洛山副顧問捏造注意(名前のみ登場)

トイレ横での不思議な出会いを思い出しながらセナは体育館へと戻った。
入り口をくぐれば広がるのは熱気。

「うわ、凄い……」

アップ時とは違う迫力にセナは感嘆する。コートの隅をそそくさと通りながらも視線は選手達の動きに釘付けだ。アメフトとは違いディフェンスが触れることが許されないプレイだが、その攻防はとても激しい。
その余所見をしながらの歩行は人にぶつかるという事態を起こした。

「痛っ!」

「ひいいい!すいません!すいません!」

やってしまった。壊れたおもちゃのようにお辞儀を繰り返す。目の前の人物はというと、少し困った表情をしてセナを諌(いさ)めた。

「反射で言っただけだからそんな慌てなくても大丈夫よ。あなたも怪我はないかしら?」

「はい!全く異常ありません!大丈夫です!!本当にすいません!!」

「そ、そう」

セナのあまりの腰の低さに今度は男の表情が引き吊る。ここまで謝られると誰しもが自分が悪いような気になってしまうだろう。

「何だ実渕。中坊いじめてんのか」

「赤司に怒られても知らないぞー」

ぶつかった男の後ろから新たに二人の人物がひょこりと登場した。雰囲気が水町に似た快活そうな男と番場のような迫力を持つ男。

「失礼ね!そんな野蛮なことしないわよ!」

彼らの言葉に実渕という男は憤慨する。このままでは彼が誤解されてしまう、とセナは慌てて間に入った。

「僕がぶつかって迷惑をかけてしまっただけなんです!」

弁解するセナに対する二人の反応は薄い。どうしよう、と焦っていると背中に優しく手を添えられた。

「この子の素直さと礼儀正しさを見習いなさい!あとあなた、もう謝らなくて大丈夫よ。ね?」

「は、はい」

こっちも余所見してたんだからお互い様よ、と実渕は微笑む。えらく特徴的な口調にもしかしてアッチ系統の方だろうかと気になるが、人柄には関係ないとあまり気にしないようにした。
それにしても、彼らはアップで見かけた記憶がない。もしかしてリコが後から来ると言っていた学校だろうか。そう考えれば先ほど出会ったクッキーの彼もそうだった、とセナは気付く。

「あの……」

「三人とも、どうかしたのかい」

落ち着いた声が実渕達の後ろから響いた。その声に三人が振り向く。

「あら、征ちゃん。監督との電話はもういいの?」

「ああ、白金先生はやはり急用で来られないようだ。引率を引き受けて下さった田中先生に迷惑をかけないように、とのことだ」

三人の隙間から見えたのは赤い髪。次に赤と橙の瞳と目が合う。

この人、苦手だ。

いきなり失礼な話ではあるが、セナは直感でそう思った。圧倒的な存在感と凶暴性を併せ持つ阿含や独特の覇気を放つ進やパンサーとはまた違う、今までには関わったことのないタイプ。嫌悪感を感じる訳ではない。ただ、とにかく『苦手』。

「彼は?」

初めて出会った頃のリコのように上から下までセナを眺め、最後には目をじっと見つめてくる。光の反射で時折黄色の光を放つ片方の瞳とその視線に、背中でひとつ汗が流れた。

「さっきぶつかっちゃったのよ。礼儀の正しいとてもいい子よ」

「そうか。君、どこの学校だい?」

初めて見る顔だ、と彼は言う。こうして話している限り、とても物腰が柔らかい印象を受けるが何かが違う。

「……一応、誠凛です。二日間限りの臨時マネージャーをやらせてもらってます」

「一応?」

「違う学校なんですけど相田さんに頼まれたので引き受けたんです」

セナの返答に彼はああ、なるほど、と納得する。まだ視線は逸らされない。

「僕は洛山高校主将の赤司だ」

よろしく。
言葉とともに、スッと出された手へとセナは視線を移し、交わる視線を無理やり引き剥がした。

「よろしく、お願いします。……小早川瀬那です」

同様に手を差し出し、優しく握る。
突然鳴り響くブザーに体をビクリと動かせば、赤司が小さく笑った。ホイッスルの音と一斉に挨拶を交わす元気な声が辺りに響く。再び合う視線。何かを見透かされているような緊張がセナを侵食した。

「マネージャーの仕事はいいのかい?」

赤司の言葉にハッとする。それと同時に耳に入るのは、自分の名を呼ぶモン太の声だった。

「よ、よくないです!」

すいません、失礼します!と誤魔化して、セナはキーパーを抱えモン太の元へと急いで向かった。



「テツヤが言っていたのはあの子か」

「何、赤司知ってる奴なの?」

少しね、と彼が走り行くセナの背中を楽しそうに見つめていたのをセナは知らない。

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130110

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