2nd secret
リコの携帯が鳴り響いたのは、朝7時のことだった。忙(せわ)しくバイブし、メロディを流す携帯を手探りで取る。
「うぅん……もう、誰よぉ」
練習は午後からなのだから後一時間は寝させてくれ、と彼女は不機嫌に携帯のディスプレイを見た。そこに示されているのは『火神大我』の文字。
「珍しいわね……」
朝のこの時間帯に電話をしてくるということは、緊急の連絡なのだろう。火神はその野性的な見た目とは裏腹に、結構まめな性格をしている。そのため、今まで緊急で連絡を寄越すことは無かったのだ。
なにかあったのだろうか、と一抹の不安を抱いてリコは通話ボタンを押した。
「もしもし?」
《…………》
「もしもし、火神くん?」
《…………》
無言の電話に間違って偶然コールされたのだろうかと考える。携帯持っていると一度はあることだ。
しかし、よくよく耳をすませば小さな音が聴こえた。
《……ク……ぅ》
「火神くん?」
《カントク……どうしよう……》
電話口の彼は今にも泣きそうな様子だった。
「火神くん!!どうしたの!?」
何かが彼に起こっている。家に向かうべきか考え、電話を片手に急いで身支度を進めていくとスピーカーから鼻をすする音がし、その後火神は再び口を開いた。
《俺……、俺……》
「無理に言わなくてもいいから!今から日向くんとお家をお邪魔しても大丈夫?」
今の火神はいつか秘密を話してくれたときの様だ。だったらきちんと向き合って聞かなければならない。彼は周囲のために本心を隠す傾向があるからだ。
火神を心配しながら父の携帯で日向へメールをする。文章にしなくとも単語で『火神 緊急 私の家 来い 他言無用』と打てば彼は飛んでやって来るだろう。
よし、相田リコ。これから勝負よ。
そう気合いを入れた後、日向へメールを送信する。しかし、パニックに陥っているのかリコの気遣いに気付くことなく、火神は泣き声混じりで叫んだ。
《俺、女の子になっちまったです……!》
ガシャンと父の携帯がフローリングを叩く音が耳に響く。
お赤飯炊かなきゃ、とリコが思うのと同時に相田家のチャイムが連打され、父がキレるのはすぐのことだった。
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130105
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