玖
※エース、マルコが好きな方は注意。
目標を見誤っていた。エースはらしくない自身のミスに心中叱咤する。
二度目の突風に煽られながらどう来るか相手を分析していると、小さな何かにいきなりやられた。その大きさに合わない闘気に咄嗟で防御したが、その一撃はなかなか強力だった。
相手は二人、いや、二体か。しかも覇気使い。タイミングの良い風で己の炎から逃れるなどなかなか運もいい模様。相手にとって不足なし。
エースは久しぶりの強敵に思わず笑みを浮かべる。水使いの能力者だろうが関係ない。己にできることはその身の炎で焼き尽くすことだけだ。
マルコの位置を確認し、両手をゴム鉄砲の要領で拳銃を真似た形にする。
「火銃!」
炎を銃弾の様に拡散して放出するが、獣は素早くなかなか当たらない。当たるのが一番だが、当たらなくとも誘導さえ出来れば十分だ。
この技は限定された範囲に攻撃する点では便利だが、立ち止まらなければ狙いが定まらない。そのため、背後や隙をとられやすいことが短所である。それに気付いたのか獣もエースを中心大きく迂回、蛇行を繰り返して駆ける。そして、とうとうエースの背後に跳んだ。
「マルコォ!今だ!!」
瞬時に頭上からを迫るのは風を切る音。翼だけを残して人間に戻ったマルコが獣を海へ蹴り落とすよう降ってきた。後で相手に知らせてどうするとマルコにどやされるだろうが、終わり良ければすべて良しだ。
だがその時、不思議なことが起こった。
急に今までにないほど心地好い気分になった。頭に霞がかかり、意識がぼんやりとする。まるで、宴の際に限界まで飲み、意識が落ちる時のような感覚。
力を振り絞ってマルコを見上げると、彼は空から墜ちているところだった。
畜生やられた、と他人事のように思った直後、身を焼くような極寒の冷たさと痛みがエースの体を貫いた。
薄れていく意識の中でマルコは自身に起こったことを分析した。
エースの技の特性を利用して上空から攻撃をしようとしたところ、急に意識がぼやけた。次に来たのは体を一刀両断にされるような痛み。そして雷撃。
分析を終えたところでエースの方へ意識を向けると、彼はその身の所々に霜を付着させ、白い息を吐きながらストライカーに膝をついていた。
水と空気が混ざり合う音が耳に響き、体が脱力する。マルコは自らの身を呑み込んでいく海に身を任せた。海賊をやっている以上いつか自身が海に還る可能性は覚悟していた。そもそも、抗おうとも能力者であるため無理な話だ。
走馬灯のように今までの人生や家族であるクルー達の顔が浮かんでは消える。訂正、走馬灯のようなではない。走馬灯だ。最後に父という存在で支えてくれた偉大なる船長の顔といつか頭を撫でてくれた感触を思い出した。
オヤジ、と口を動かすと泡が水面へと立ち昇る。
すまねぇ、馬鹿やっちまった。
そうしてマルコは目を閉じた。
馬鹿言ってんじゃねェやィ、と先ほどの敵の声が脳内に木霊し、自身を打ち負かしたあの白い獣がなぜか真っ赤な隈取りと化粧をその身に刻んでこちらを見詰めている姿が浮かぶ。
沈んでいるはずなのに、不思議と海の底から何かに押し上げられている気がした。
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130106
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