8th game
引き摺られて行く黄瀬を見送ると、黒子がこちらに向き直る。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。あの人大丈夫かな……」
凄い蹴られてたけど。セナが心配した様子で海常の集団を見つめていると黒子があっさりと返した。
「さっき火神くんにも言いましたが黄瀬くんはあれがデフォルトなんで大丈夫です」
「そうなんだ……」
「人は全然違うけどよぉ、俺はアイツが瀧に重なって見える」
確かになんか頑張りが報われない感じは近いものをセナも感じる。
きっと苦労しているんだろうな、と黄瀬に同情しているとモン太が唸りながら再び口を開いた。
「俺達さぁ、アイツに会ったのは今日が初めてだよな?」
「え、うん」
そうだけど、とセナが返すとだよなぁ、と彼は再び唸りだすが、流石にそんな様子を見せられたら気にならない訳がない。
「どうしたの?」
「いや、さっき思ったんだけどよ、あの顔どっかで見た気がするんだよなぁ」
いつか、日向を見た時のセナのようだ。それをふと思い出したセナはモン太に一言言ってみる。
「バスケの雑誌の表紙で見かけたとか?」
「いや、俺月刊アメフトしか読まねぇし……」
雑誌なぁ、と顎に手を当てて宙に視線をモン太がさ迷わせる。すると、黒子が声をかけてきた。
「黄瀬涼太じゃないですか?」
「それだ!母ちゃんの読んでる雑誌にあった……って、えぇ!?あれ本物のキセリョ!!?」
「な、なんで芸能人がこんなところにいるの!?」
驚いて聞くと、彼は淡々と答える。
「モデルのバイトしてるんですよ彼。まぁ、何をするかなんて本人の自由じゃないかと」
確かにそうだ、とセナは納得する。こちらにだって桜庭春人という人物がいたではないか。
もしかすると、黄瀬は桜庭のことを知っているかもしれないだなんて、この広い都会での意外な世間の狭さを感じていると、話は変わりますが、黒子がセナの思考に割って入った。
「キミ達とこんなところで一緒に過ごすだなんて全く思いもしませんでした」
そちらの部活は大丈夫なんですか?
黒子は心配している様子だった。恐らく、ヒル魔のことも含んでいるのだろう。
「校内は砂の入れ替えとワックスがけで丁度二日間部活禁止なんだ」
「だからもしヒル魔先輩にバレても大丈夫なんだよ」
まぁ、バレないのが一番なんだけどな……、と一瞬で暗い顔になったモン太にセナも苦笑する。大丈夫なはずなのに、見つかった時のことを考えると背筋が寒くなった。
気分が悪くなる話はここまで、と今度はモン太が話を変える。
「始まってすぐ試合かと思ってたけどよ、最初の一時間は合同アップなんだな」
「あと二校来てませんし試合数合わせのためだと思います」
「僕タイマー触るの初めてだから緊張するなぁ」
落ち着かない様子でセナが胸元を押さえる。その姿を見て黒子はクスリと笑った。
その笑顔は黒子の雰囲気からか、不思議と儚さを感じる。
「小早川くんとモン太くんなら大丈夫ですよ。キミ達はきちんと人に頼る事ができる」
黒子の言葉にどういう意味だ?と二人が揃って首を傾げるが、そろそろ始まるので失礼します、と彼はリコの元へと向かって行った。
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130102
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