番外編1 | ナノ


1st secret

おかしな夢だ。薄ピンクのカーテンや白いレースで飾られ、白いインテリアでコーディネイトされた部屋で火神は思った。夢と理解していても、その可愛らしい装飾とベッドや棚の上を彩るぬいぐるみや小物に目を奪われる。
そして、パステルカラーのアロマキャンドルが目に入った時、次は香り付き石鹸か固形入浴剤もいいな、だなんてことを相変わらず彼は考えた。

「楽しみが増えたね」

唐突に聞こえた声に驚きそちらを向く。そこにはネグリジェに身を包んだ少女がいた。その腕には見覚えのある人形。
ウサギのマリアンヌ。火神が一番初めに作ったぬいぐるみだ。

「ねぇ、九十九(付喪)神って知ってる?って言っても大我はアメリカンだから知らないか」

少女は唐突に言い出した。その内容通り、何のことか分からず黙る火神に少女は続ける。

「心はしょうがないと思うわ。私はぬいぐるみ、彼らは人間だもの。でもさぁ、私の長年の席までとられちゃったのは結構ショックだったの」

その言葉にふと、ベッドラグに並べたチームメイト達をデフォルメしたぬいぐるみが浮かんだ。それと、お引っ越しと声をかけて掃除以外で初めて定位置から移動させたウサギのぬいぐるみ。
まさか、と火神は思う。続いて脳裏に浮かぶのは狂った人形から逃げ回る有名なホラー映画のワンシーン。

「あ、分かった?そんな怖がらないでよ。嫉妬で大我や彼ら傷付けるなんて悪女みたいな馬鹿な真似する気なんてさらさらないから」

そんなことしたら大我に嫌われちゃう、と少女は抱えたぬいぐるみで口元をかくして小さく笑った。その様子はとても無邪気だ。
でもね。彼女は再び口を開く。

「ちょこっとイタズラさせてね」

今日一日だけ大我の悩み解決してあげるからさ。

そう言うと、急な眠気と脱力感が火神を襲った。段々意識が遠くなっていく中、少女の笑い声が耳に木霊した。



何だか変な夢を見た。内容は思い出せないが、変な夢だったことだけは覚えている。ぼんやりしながら火神はベッドから身を起こした。時計を見ると、時計の針は7時前を指していた。
休日である今日、練習は午後からだ。午前中はゆっくりできる。チームメイトのぬいぐるみを眺めて今日一日の流れを考えていると、視界の隅でいつもと違う光景を捉えた。

ウサギのマリアンヌが本棚の上から落ちていたのだ。急いでそれを拾い上げ、ボディを優しく手で払った後元の位置へと戻す。

「おはよう」

あいさつしてひと撫ですると、ぬいぐるみが笑った気がした。

「みんなもおはよう」

いつもより高い自分の声にもしかしたら風邪をひいたかも、だなんて考えながら火神はシャワーを浴びに向かった。

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130105

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