3rd secret
行く宛もなく薄暗く閑散とした校舎内を駆け抜ける。心臓が冷たくなる程酷使され、練習で疲れきった体が悲鳴を上げた。
それでも火神は走る。少しでも体育館から、バスケ部から離れようと。
先程まで自分を追いかけていた黒子はもういない。心に突き刺さしていた火神を呼ぶ声は聞こえなくなり、安心する筈なのに化膿したかのように自身を蝕む痛みは強くなる。体のどこかにポッカリと穴が空き、大切で失いたくなかった何かが風化していくような感覚を錯覚した。
「ふぅん、カードをねぇ……」
あの場を強制的に落ち着かせ、火神を追いかけた黒子を除いて全員から何があったのか聞いた。
未だに斜を背負う降旗が言うには落ちていたの何かのカードを拾おうとしたところ、火神が突然激昂したらしい。
「もしかしたら火神にとって凄く大事な物だったのかもしれません。あんなに怒鳴ったあいつ今まで見たことないし……」
その時ことを思い出し、さらに落ち込む降旗。このまま地面にめり込んでしまいそうな勢いだ。
「リコ……、もういい。責任は全部俺がとる。というか無理だ。あれだな、今まで散々あいつにアホだのなんだの言ってたから罰(ばち)が当たったんだよ……」
いつもの「カントク」という呼び方はすっかり抜けきり、日向は真っ白に燃え尽きていた。
その周りは左右に土田と木吉、背後に水戸部が場所を確保していつでも日向を止められるようスタンバイしている。伊月と小金井は日向のベルトや救急箱のハサミといった凶器になりかねない物を見張っていた。
誠凛=14(二号と武田先生含む)=1という何ともまあ、どこぞの青春漫画の様な思想を本心に持つ日向にとって今回の件のダメージは大きい。しかし、先輩大好き!後輩大好き!チームメイト大好き!誠凛最高!という気持ちがあるのは全員同じであり、それだけに今回の出来事のショックは大きかった。
だが、話を聞いたリコにはどうしても確認したいことがあった。
「あのさ、日向くんも降旗くんもさっきから嫌われただのキャプテン失格だの言ってるけどさ、それは火神くんに直接言われたの?彼、本当に怒ってたのかしら?少なくとも火神くんは正直に気持ちを言う子だし、今回はそんなことも出来ないくらい動揺したってことでしょ。そんなに怒ってたなら胸ぐら掴むぐらいのアクションは起こすと思うんだけど」
リコの分析内容にでも、とウジウジする情けない日本男児二名。しかし、でもでもだってと延々と後悔したところで話は進まない上に真相も分からない。まずは状況把握、次に行動がリコの問題が起こった時の対応の原則だ。
「まずは火神くんを探すわよ。福田くん、火神くんの荷物ちょっと見てくれない?」
え?と戸惑う福田に財布と鍵があれば少なくとも家には帰ってないと思うの、と告げると納得した様子で火神の荷物を確認する。
「財布と携帯、あと、家鍵っぽいのもあります!」
福田の答えによし、と呟き、頭の中で次にどうするか考える。
「決まりね。保護係と連絡係でペア組んで手分けして校内探すわよ!連絡係は火神くんを見つけ次第一斉送信で場所をメールする事。黒子くんにもあたしから連絡しておくけど、携帯持ってない可能性もあるから会ったらこのことを伝達して。いいわね!」
はい!やら了解!やら返事はバラバラであるが、方針は固まった。あとは無事火神を見つけ出し、事情を聴くだけだ。
あの、すれ違った瞬間の火神の泣きそうな表情を思い出しながらリコはゴーサインを出した。
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121224
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