六話 | ナノ




「遠目じゃあんまり分かんなかったけどよォ……こりゃかなりデケェなァ!」

イッスンは風にさらわれそうになる笠を押さえてしみじみと言った。
見つけた時は豆粒ほどの大きさだった船も、その全体像が把握できるほど近づいたが、目に入る船尾だけでもその巨大さは他に見たことがなく、いつか探検した幽霊船とは比べ物にならない。一体何人乗っているのやら。

そんなことを考えていると、船の方角から何かが飛んで来ているのが目に入った。
なんと、青い鳥ではないか。空を流れる尾が金色輝いて美しい。

「珍しい鳥だなァ。アマ公!豆は残ってたっけかァ?」

いつもの癖でエサ袋を探す。しかし、イッスンの思いとは逆にアマテラスは急に走るのを止めた。

「ん?アマ公どうしたんッ……!」

ぐるりとイッスンの視界が回る。咄嗟にアマテラスの毛を掴んだ為大丈夫だったが、あと一瞬遅ければ海に落ちていた。

「……ッテメェ、アマ公!オイラを海に落とす気かァ!!合図ぐらいしやがれってんだィ!!」

体を真っ赤に輝かせてカンカンに怒るイッスンだったが、アマテラスの様子に口を閉ざした。唸っているのだ。あのアマテラスが。
視線の先には青い鳥。優雅に上空を旋回しているが、心なしかあちらもこちらを睨んでいるように見える。そして次の瞬間、風を切りながら凄まじい勢いで突進してきた。

「あぶッ……!」

アマテラスが跳ぶ衝撃に歯がガチリとなる。幸い舌は噛まなかったが、イッスンの怒りは次第にアマテラスから目前の青い鳥へ向かいだした。

「やいソコの青鶏ィ!いきなり何しやがんでェ!こちとら攻撃されるような覚えはねェってのによォ!!」

イッスンとしては軽く文句を言った程度のつもりだったのだが、青い鳥は思いの外納得した様子でこちらを見つめてきた。

「水上に浮いて且つ喋る犬ってことはテメェは能力者かよい。いや、能力犬か?」

「ととととと鳥が喋ったァ!!?」

「テメェも喋ってんだろうがよい」

まさかである。笹部郷の雀達やカムイのオイナ族はともかく、流石のイッスンも言葉を話す青い鳥の噂は聞いたことがない。一瞬妖怪かとも考えたが、独特の話し方や邪悪さが感じられず、むしろ八犬士に近い感覚だった。
頭をひねるイッスンに青い鳥は言葉を続ける。

「おい、さっきうちの船とクルーを黒くしたり雨を降らしたのはテメェか」

心当たりのありすぎる問いにイッスンはギクリと体を揺らす。まさかあの船の関係か。
というとならばアマテラスの悪戯でさぞ酷い思いをしたのだろう。
一瞬嘘を吐こうかとも考えたが、冷静になってみるとイッスンは自分は特に悪くないことに気付いた。それよりもそろそろこの悪戯者ならぬ悪戯神に灸を据えるべきでないかとも思いだす。

正直に話そう、そしてたまには自分に代わって説教でも食らいやがれ、ぐらいの気持ちのイッスンだったが、説教どころではなくなるなどこの時点では考えもしなかった。

「それをやったのはコイツでさァ!オイラも止めたんだが聞く耳持たなくってよォ……。『くるー』っちゅうのは何かちょっと分かんねェが、黒塗りのどしゃ降りはこの白い犬っコロの仕業だぜェ!」

「ほぉ……」

ざまあみやがれアマ公!
明らかに怒った様子の鳥にイッスンはにやける。

さて、ここで双方共に勘違いが生じていることについて説明しよう。アマテラスは全く攻撃の意思はなく悪戯を行ったが、白ひげ海賊団の面々は攻撃として捉えている。そして、アマテラスを能力者と考えた。
対するイッスンとアマテラスは、まさか異世界に来ているなどとは微塵も気付いておらず、彼らは墨濡れにされ突風に吹かれてずぶ濡れにされようが、挙げ句の果てには急に現れた爆弾に吹き飛ばされ、炎や雷に焼かれようが、少し怒った後には笑って許し最後には頭を撫でてくれるあの異常なほど心が広い民達と同じようにマルコに接した。
あの悪質な悪戯でも説教程度で済むつもりで認めたのだ。

「コイツだかオイラだか訳分かんねぇがテメェが犯人ってこと分かりゃそれで十分だよい」

やれ、エース。遠慮はいらねぇ、と青い鳥が言う。
そして、今度は炎の波がイッスン達を襲った。

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121224

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