一話 | ナノ




雲一つない空。まさに快晴としか言いようがないくらいだ。そして目の前に広がるのは両島原以上に広大な海。

「一体ココはドコなんでィ……」

小さな旅絵師イッスンはアマテラスの頭上で頭を抱えた。その手元にはナカツクニの地図。各地名だけでなく、人魚泉や霧飛の拠点も書き込んである珠玉の一品だ。
しかし今現在、その地図は真っ白であった。今までの彼らの旅などまるで無かったかのように。

始まりはいつも通りの人魚泉での移動だった。神木村で一通り村人達と戯れた後、久し振りに風神宮のフセ姫に会いに行こうという話になり、神州平原の人魚泉を使った。しかし、気が付くとそこは高宮平ではなく、右も左も海。
間違って両島原に来たのだろうか?と考えたイッスンだったが、両島原の海上には人魚泉はない。念のためと思い地図を開くと、先ほどの状況だ。

「何がどうなってんやがんだァ?」

以前に時をも遡った経験があるイッスン達だが、それは幽門扉という特殊な遺物によるものが関わっており、始めこそ驚いたものの何とか受け入れることができた。しかし、今回は違うのだ。
ピョンピョンと跳ねて見回すが周りは海、海、海。カモメすら見当たらない。
とうとう跳ね疲れたイッスンはいったん落ち着こうと腰を下ろした。フカフカのアマテラスの毛の感触が気持ち良い。
そんな風に体を座布団代わりにされているアマテラスはというと、暖かいポカポカのお日様の下で気持ち良さそうに寝ていた。呑気なものだ。水捌けの石簡を着けているため水上にいようが関係無い。非常時以外はゴーイングマイウェイ、それが彼女なのだ。

「……ったくコイツは相変わらずだなァ……。オイ、アマ公!ポァッとしてねェでテメェも船か陸の一つくらい探しやがれってんだィ!」

鼻先へ移動し赤くなって飛び跳ね怒鳴る友人の声に、アマテラスは耳をピンと立て体を起こした。小さな水音が響き、アマテラスを中心に波紋が広がる。
そして彼女は一つ欠伸して体を大きく震わせて水気を飛ばすと、ゆっくりと歩き始めた。



「って言ってみたはいいが、なんにもありゃしねェ……」

うんざりした表情で溜め息を吐(つ)くイッスン。
四半刻ほど歩いたが流れる雲に変わらぬ景色。綺麗な海は素晴らしいが、今の状況では全く楽しめない。とはいえど、足を動かさなければならないのはアマテラスでありイッスンではないのでそこまで文句を言うわけにもいかない。
肩をガックリと落としたイッスンを心配するように、アマテラスがふんふんと鼻を鳴らした。

「まさかオメェに心配かけるなんてなァ……。ま、大和男子(やまとおのこ)のオイラはこれしきのことじゃあへこたれねェ!」

気を取り直したイッスンは電光丸を抜き刃先を前に向けて掲げ、元気であることを示す。アマテラスも尾を振り安心した様子だ。
と、電光丸の指す水平線に僅かな影が見えた。

「うん?ありゃ何だァ?」

大きさの違う2つの影。
よくよく目を凝らして見ると、少しずつ動いているようだ。咄嗟に船だ!とイッスンが大きく叫ぶとアマテラスも気付いたようで短く一つ吠えると、分かっていると言わんばかりに駆け出した。
その白い体躯はあっという間に小さくなり、何もいなくなった海上には小さな可愛らしい蓮の葉が道標(みちしるべ)のように点々と漂っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

121224

back

「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -