六話 | ナノ


6th game

日の光を受けて輝くのはセットされた金色の頭髪にピアス、そして黒いとある物体のフレーム。

XM117。『彼』もとい、『ヒル魔』こと『蛭魔妖一』が最も愛用するアサルトライフルである。装弾数30発、連射では850発/分の立派な突撃銃だ。
それを肩に担ぎ、ガムを膨らましながら悠々と歩いてくる姿は泥門では見慣れた光景であり全く違和感がない。

「…………」

「……なぁカントク」

「……何かしら?」

「俺はこの前テレビで日本は世界有数の安全な国ってのを見たんだがありゃ嘘か」

「それ以前に銃刀法違反なるものが我が国にはあるはずよ」

そうか、そうよ。なんというかもう目を疑う光景である。
泥門バスケ部の面々は、ただ一人、主将を除いてすっかり震え上がってしまっていた。ちなみにリコに唯一の情報をくれたのも主将の彼だ。そして、これから待ち受けているのはアメフト部と同じルートのロードワークだ。
セナ達は笑顔でヒル魔に挨拶してから何か話しており、内容が気になるところだがこちらはそれどころじゃない。
犬に怯える火神に顔色が一層悪い泥門バスケ部と、練習が始まってすらいないのにも関わらず心配しなければならない状況である。何せ、名前を出すだけで悲鳴を上げていた対象が練習中も側にいる可能性があるのだ。

リコが心で泥門の彼らに合掌しているとヒル魔がこちらに視線を寄越した。同時にパチンと膨らんだガムが割れる。

「おい、糞(ファッキン)パーマ」

リコ達が誰?と疑問に思う前に泥門の主将が返事を返した。確かに彼は頭頂部にパーマがかかっているが、もっとまともな呼び方をしてあげてはどうなのだろうか。口にせずとも誰もが思った。

「テメェらも黒美嵯川か」

「ああ、そうだよ。アメフト部もそうみたいだな」

「何kmだ」

「ウォーミングアップだから5kmくらいだな。今、一年が一人忘れ物を取りに行っているから来たら始める予定だ」

「…………」

急に考え込み始めたヒル魔の様子に今度はセナ達の顔色が悪くなった。どうやら誠凛におけるリコのスキップのように彼らにとって何かの前兆みたいだ。
そして30秒ほどすると、そのクールな顔はみるみる内に禍々しい笑顔になった。

「よく聞きやがれテメェら!今からバスケ部がロード終わるまでに10km走れ!!」

達成できなかった野郎は死刑だ、と言い切ったヒル魔にリコ達は唖然とした。無茶苦茶すぎる。

「はぁ!?無茶苦茶にもほどがあるだろ!馬鹿か!!」

真っ先に抗議の声を上げたのは十文字だった。一緒にいる黒木と戸叶も無言ながら必死に頷く。
そんな彼らの抗議を押し潰すようにヒル魔が懐から取り出したのはデザートイーグル。周りが逃げる前にそれは火を吹いた。
しかし、それは十文字達三人に風穴を空けるなんてことはなく、変わりに頭の一ヶ所がペイントで汚れただけだった。

「ってぇ!!って、あ?何だこりゃ?」

「ペイント弾?何かベタベタする」

「妙に甘い匂いが……」

「安心しろ。シャワーを浴びりゃ落ちる」

ヒル魔以外のその場にいる全員が頭にはてなを浮かべたが、のそりと何かが立ち上がる音に十文字達の表情が凍った。

獣の低い唸り声。まるで錆び付いた機械の様な音を立てて彼らが振り向くと同時に、先ほどまで大人しかったあの犬が涎をたらしながら某ホラーアクションゲームの犬の如く吠え、飛びかかって行った。

「走れ!!!!」

十文字達は怒鳴り声をあげながら、目にも止まらぬ速さで駆け出した。

「ケケケ。おー、速い速い」

「フゴ!!!!」

愉快そうに笑うヒル魔の横を小さいが逞しい体を持つ少年の小結が駆け抜け、十文字達の後を追う。その顔は対抗心に燃えていた。
そして、 その場に残ったのはセナとモン太、栗田、ヒル魔に、先ほどからひたすらポーズを決めている男性とローラーシューズを履いた小さな女の子だった。

「アハーハー!僕なんか鈴音を引っ張っても余裕さ!!ん?ちょっと太ったかい?」

「死ね!」

「馬鹿は問題ない」

腰に紐をくくりつけ、激怒する少女を引っ張りながら馬鹿が輝かしくスタートした。
うわぁ、と彼らを見つめる誠凛と泥門の両バスケ部に、次はとうとう自分達の番であることに冷や汗を流すセナとモン太。リコ達は、ヒル魔という人物が恐れられる理由など言葉で聞かずとも、もう理解していた。

「糞デブ、テメェは引退してる身だ。好きに走れ。ただ10kmのノルマは死んでも走れ」

「分かったよ。でも僕も皆に負けていられないね!」

えっほえっほと体を揺らしながら栗田も出発する。

残るはヒル魔を含む三人だ。緊張感が辺りを包む。
一体彼らはどう走らされるのか、という不思議な期待がリコ達の間を巡るが、入部以来ずっとヒル魔に付き合ってきたセナ達には最早今から何が起こるのか分かっていた。

「テメェらは、パスルートの復習だ」

スラント!とヒル魔が叫ぶとXM177からマズルフラッシュが生まれる。
そして、戦争の突撃歩兵の様に走るヒル魔に追われながらセナ達は盛大に悲鳴を上げて黒美嵯川沿いに消えて行った。

「……流石世界レベルの選手を持つチームね……!」

「いやそんなんじゃねぇからアレ」

ゴクリと唾を飲み込み、凄い指導方法だわ……!と混乱しだしたリコを日向が抑えるが、あんな光景を見せられた後には無理もない話だった。

その後、忘れ物を取って来た一人の一年生が泥門バスケ部のチームメイトに八つ当たりされていたが、微妙な顔で見守ることしか日向達にはできなかった。
ロードワーク中も悲鳴を上げて走り抜ける十文字やセナ達に、高笑いをしながらXM177を乱射して彼らを追いまわすヒル魔と涎を垂らす犬を常に視界に入れる羽目になり、その度泡を吹く火神をフォローし、時折柔らかい雰囲気を発する栗田を癒しに挟みつつ、終始全員の顔色が悪いまま走ることになった。
しかし、なんとセナ達はは本当に日向達が5kmを走り終える前に栗田以外の全員が10kmを完走したのだ。それには流石に感心するしかなかったが、赤いユニフォームの面々が校門に死屍累々と転がる様は異様であった。

その後はセナ達とは遭遇することはなかったのだが、グラウンドから爆音が聞こえたり、遠目で煙が上がった後には風に乗って火薬の臭いが漂うという大変新鮮な環境で練習をしたのは彼らの忘れられない思い出だろう。

そして、携帯でモデルガンと猟犬のサイトを見つめるリコの姿を発見し、全員で止めにかかるのは後日の事である。

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121224

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