4th game
太陽も上がりきり、春の陽気に触れて体が暖かい。ストレッチをしながら火神は欠伸を噛み殺した。
「学内練習ならともかく、合同練習の場で眠そうにすんなダアホ」
「いでっ!」
「マナーがなっていませんよ火神くん」
「だっ!」
開脚をする火神を日向と黒子からの二つの衝撃が襲う。
「暖けぇからつい……。すまねぇ、です」
申し訳なさそうにしながら謝るも、不服な様子の火神にほぉ?と日向の目が据わる。
「だったら火神だけロードの内容変えるか。20mおきのインターバルダッシュでコース走らせてもらえ。眠気も吹き飛ぶし体力もつく。一石二鳥だな。どうだ、カントク?」
「悪いメニューじゃないけど午後からの練習試合前に火神くんが潰れちゃうわ。また今度ね」
「ゲェッ!?勘弁してくれです!!」
やり取りを見た誠凛、泥門両方から笑い声が上がる。ひとしきり笑い、ストレッチを終えた後、頭頂部のパーマが特徴的な泥門高校主将の声がけで校門へと移動した。
「あれ?あそこにいるの小早川くん達じゃない?」
校門に向かうと校門脇のスペースにはユニフォームに身を包んだセナ達がいた。
前回誠凛で会った時には彼らは私服だったが、こうして見るとスポーツマンらしい雰囲気が滲み出ており貫禄を感じさせる。そんなセナとモン太も火神達に気付いたようで笑顔で手を挙げた。
「火神くん達も黒美嵯川沿い走るの?」
「おー、その感じだと小早川達もか」
「まあ、恒例メニューのひとつだからな。慣れない道だと思うから怪我に気を付けろよ」
じゃあ、と手を振りストレッチを再開した彼らから意識を外すと、リード用の自転車をついて周囲を見回すリコが目に入った。
「誰探してるんだ?全員来ているぞ」
気になった木吉が思わず聞くと、リコは苦笑して答えた。
「いや、小早川くん達がいるなら例の『ヒル魔先輩』とやらもいるかなぁって思って」
「お前なぁ……」
呆れる日向にリコは「だって気になるじゃない」と開き直って言い返す。
確かに案内の時の松井の言葉や、部室を訪ねた際のあの不良達の焦り様から一体どんな人物なのかはとても気になるが、今は合同練習中だ。余計な事を考えていると怪我にも繋がりかねない。
しかし、リコだってただの興味本意ではなく選手を育てるトレーナーとして『ヒル魔先輩』という人間を知りたいのだ。
ヒル魔についての質問に対して悲鳴だらけの中、恐怖の対象であること以外で唯一手に入れた情報は彼が二年前にアメフト部を創設し、泥門デビルバッツの選手達を日本や世界のトップクラスたる能力まで引き上げた一因を担っているということだった。しかも聞くには、ヒル魔を除くと栗田とムサシいう人物以外は去年の春から始めた初心者だという。
つまるところ、リコは泥門デビルバッツの頭脳であるヒル魔を通してバスケに利用できる何かがあれば是非ともその知識やトレーニング゙方法を取り入れたいという思いがあった。
うふふ、と不穏な様子で笑うリコに嫌な予感しかしないと日向達はは身を震わせた。しかしこの後、彼らを更に震え上がらせる事態になるなど誰も予想していなかった。
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121224
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