7th game
目の前に並ぶのは長身の男達。筋肉質で長身であるというのは栗田や大田原とはまた違う印象をうける。2m級の選手はいないとはいえ、まるで巨深の高波(ハイウェーブ)に対峙した時のようだ。
「各校個人にスケジュール表が配られていると思うが、試合順、コートはその紙に書いてあるとおりだ。各校予定時間前にはコートに入れるよう準備しろよ。あと怪我だけはするな。実りある合同練習になることを期待する!あとは各校指導者の指示に従え」
では解散!と武内が言うと選手達がそれぞれ動き出す。セナがタイマーでの得点の付け方や扱い方を頭の中でデビルバットと復習していると、いきなり肩を叩かれた。
「きみ、ちょっといいッスか」
「うえっ!はい!?」
驚いて振り向くと、そこには名前は知らないが見覚えのある顔。そう、入り口で転んだ際にはセナを指差して『ジェット小僧』と意味の分からないことを叫んだ後はしばらくセナ達の後をつけ回した挙げ句、先輩らしき人に殴られていたイケメン。
向こうは何やらセナに用事があるようだが、関わった記憶のないセナにとっては不思議に思うばかりだ。
頭にはてなを飛ばすセナに対して金髪の彼は不機嫌な様子で訊く。
「今日、9時前頃にどこにいたか教えて欲しいッス」
「く、9時前ですか?体育館に着いたばかりでしたけど……」
「ああ、正確には8時45分頃ッス」
その時間といえば、モン太を後ろに全力で走っていた筈だ。特に誰かに会った記憶はない。
「恥ずかしい話なんですけど遅刻しそうだったので走っていました……」
「やっぱりッス!!アンタ、走ってる時にバスが横切らなかったッスか!?」
「え、いや、必死だったからあんまり覚えてなくって……」
嘘ではない。記憶にあるのはスピードとともに流れて行く体育館への道のりの景色。というか、あとどれくらいで到着するのかという考えでいっぱいいっぱいだったため、大変疲労したことだけしか分からない。 しかし彼は納得がいかないようで遂にはセナの両肩を掴んで揺さぶり出す。
「アンタが覚えてなくても俺はアンタを見たんスよ!!というかアンタのせいで今日は朝から散々ッス!」
「ぇえ!?そ、そんなこと言われても…!」
「おい!ちょっとやめろよ!!」
見兼ねたモン太が止めに入るが彼の目にはセナしか目に入っていないようだ。 すると、突然彼が崩れおちた。
「〜〜!黒子っち!!いきなり何するんスか!?」
「それはこっちの台詞です、黄瀬くん。小早川くん困っているじゃないですか」
崩れ落ちた黄瀬の背後には少し膝を曲げた黒子が立っていた。どうやら黄瀬に膝カックンを仕掛けたようだ。
そのいきなりの出現に、助けられたセナとモン太も小さく悲鳴を上げてしまう。
「だって本当のことなんスよ!てか、黒子っちコイツと知り合いッスか!?」
「知り合いも何も小早川くんとモン太くんはボクの友人です」
あっさりとした黒子の答えの内容に黄瀬はショック受けたようで大きくふらついた。
そして、凄まじい勢いでセナに向き直るとさっきの比でない勢いでセナをガクガクと揺する。
「黒子っちに友人って紹介してもらえるなんてアンタ何者なんスか!?羨ま……ズルいッスよ!!年下なんだから先輩にいい思いさせるのが役目じゃないんスか!!?」
「い、いや、ぼくはははは!!」
何が何だか訳が分からない。
それよりも、黒子への口のきき方をから恐らく同い年なのだろうけど、また勘違いされていることの方が気になる。リコ達と出会った時もそうであったが、そんなに幼く見えるのだろうか。
チビなんて何一つ良いことがないじゃないか、と心中不貞腐れているとようやく体の揺れが治まった。
そして黄瀬はと言うと頭を抱えて悶絶している。
「黄瀬ェ……」
「か、笠松センパイ……!」
黒子の隣には先ほども黄瀬を引き摺って行った人物がいた。その体は細かく震え、背後からは地響きのような音が聞こえてきそうな雰囲気だ。
「他校の選手にまで迷惑かけてんじゃねぇっ!!」
「ぎゃん!!!!」
鋭い蹴りが黄瀬の殿部に入った。うわ、いてぇ、と呟いてモン太が同じ部位を押さえている。そして、ずるずると黄瀬は三度笠松に引き摺られる羽目になった。
しかし、ここでは引けないとばかりに黄瀬は最後の力を振り絞る。
「そこの二人!試合では覚悟しろッス!!試合でいなかったら昼休み1on1に引きずり出してやるッス!!」
えぇ!と困った声をセナが上げると、黄瀬はその様子に満足したようで不敵に笑った。すると、あれ?とモン太が首を傾げると同時に黒子が口を開く。
「黄瀬くん。小早川くん達はマネージャーなのでバスケはしません。あと、彼らはボク達と同い年です」
「そんなぁッス!!!」
美形は絶望した顔も美形だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
130101
← back →