6th game
「こちらは今回の臨時マネージャーの小早川くんと雷門くんです。主に水分の準備や第一コートのタイマー及び得点、試合中、前後のモップがけをお願いしてありますので、試合後は次までじっくり話し合いや合わせをして下さってかまいません」
「こ、小早川瀬那です!よよよよよろしくお願いします!」
「雷門太郎っす!」
見知らぬ大人達がこちらをじっくりと見る視線に緊張する。ゴクリと一つ唾を飲み込んでセナ達は背筋を伸ばした。
入り口で晒し者になった後、心配するリコに怪我はないか調べられ、無事が分かると今度は各校の監督達がいる場所へセナ達は連れて行かれた。
最中、ずっと近くで去年の春頃の桜庭に負けないほどやたらめったら輝かしい金髪の青年が騒がしかったが、先輩らしき人物に一発殴られ、引き摺られて行った。大丈夫なのだろうかあの人。
「ん、よろしく」
「誠凛はあの11番といい選手のバリエーションが多いなぁ。よろしく頼むよ」
やや太り気味の男性とのんびりとした口調が特徴的な男性が答える。すると、リコが後者の男性に不満げ様子で言葉を返した。
「中谷監督、それどういう意味ですか」
「いや、君達を馬鹿にしてる訳じゃなかったんだがねぇ。悪く聞こえたなら謝るよ」
「別にかまいませんよ。お礼は練習でたっぷりと返させていただきますから」
「まいったなぁ」
もう一人の監督を置いてきぼりに何やら盛り上がっているが、もうすぐ練習なのにいいのだろうかとセナは思う。しかし、バスケのことは体育で学んだ程度にしか知識のないセナは、専門のことは専門の人達に任せよう、と深く考えるのは止めた。
「小早川くん、モン太くん。こちらが海常高校の武内監督。で、こちらが秀徳高校の中谷監督よ」
「あ、はい!武内監督に中谷監督ですね!……あれ?もうひとつ学校いませんでしたっけ?」
「そうだよなー。ゼッケンは白と青とオレンジと黒……。四色あるっすよ」
セナ達の質問にリコは少し感心した表情を見せた。そしておもむろに辺りを見回す。
「なかなか周りを見てるわねぇ。あ、いた!」
あの人が桐皇高校の原澤監督よ、とリコが手を差し伸べる方向へ目を向けると、少しウェーブがかかった髪が特徴の男性がマネージャーらしき女性と話をしていた。
バスケって美形の監督が多いんだなぁ、隣の女の人すごい桃色だなんてことを考えながら見つめていると、セナ達の視線に気付いたのか彼らがこちらへ向く。慌てて礼をすると、原澤が慣れた様子で紳士的に礼を返す一方、隣の女性はなぜか固まってセナを凝視していた。
「あの女の子すげぇ美人だなぁ。つっても俺はまもりさん一筋だけどよ!」
「原澤監督の隣にいるのは桐皇マネージャーの桃井さんね。彼女は桐皇のスコアつけたり他のコートの担当でなかなか関わる機会はないと思うけど、分からないことは彼女か私に訊けば大丈夫だから」
「分かりました。……あの、相田さん」
「ん?なぁに?」
「……あの人凄くこっち見てくるんですけど僕達何かしました?」
途端にお前自意識過剰だなー!と笑ったモン太に恥ずかしくなって顔を赤くしていると、リコが大変愉快そうな表情でセナの肩に軽く手を置いた。
絶対色恋沙汰の方面でなにか勘違いされている!と先ほどの自身の発言に後悔していると、リコの反応は別のものだった。
「そっかー。そうよね。あの子、情報収集が凄い子だからぶっちゃけ高校バスケと中学時代の後輩世代の選手のデータは全部持ってると思うのよ」
「そ、それは凄いですね……」
その言葉に思わずヒル魔の脅迫手帳が脳裏に浮かぶ。彼の場合はアメフト選手に限らず軍隊やらテレビ局やらかなり広範囲に及ぶが。
「でも小早川くん達はバスケじゃなくてアメフトでしょ?だから多分自分の持つ情報に全く存在しない人がいたから驚いちゃったんじゃないかしらね」
「なるほど……」
「何か得した気分だな!」
モン太が見当違いなことを言うのをそうね、だなんて優しくリコは流し、道具の取り扱いの説明に向かった。
相変わらず突き刺さる様々な視線に何だか体が痒くなった。
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130101
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