二話 | ナノ


2nd game

「黄瀬、起きろ。もうすぐ着く」

寝心地を悪くするバスの揺れに呻きながら黄瀬は意識を呼び起こした。ぼやけた視界には通路越しの席からこちらを見つめる笠松の姿が映る。

「うーん……。もう到着ッスか?」

固くなった上半身を簡単なストレッチで伸ばしながら返事をすると、黄色い髪がかかる黄瀬のこめかみに拳がめり込んだ。

「お・れ・が・たっ・た・い・ま・いっ・た・こ・と・ば・を・お・ま・え・は・も・う・わ・す・れ・た・の・か?」

「いだだだだだ!か、確認じゃないスか!?頭蓋骨削れちゃうッス!」

「黄瀬、うるさいぞ」

「監督も俺だけ注意ッスか!?」

「笠松はOBだからな」

横暴ッス!と涙目の黄瀬を無視して笠松は座席に座り直した。

今回の合同練習は強化兼交流という目的で各校の監督同士が話し合い、企画したものだ。県大会まではまだまだ時間もあるし、プレイや作戦についてもそんなにナイーブになる時期でもない。
そして、キセキの世代を獲得した各校と練習できるというのは選手のレベルの高さから得られる経験値の質も良い。何よりも誠凛へのリベンジのチャンスにもなる。練習試合での勝利で満足するつもりはさらさらないが。

先ほどの涙目からウィンターカップの雪辱を晴らさんと静かに闘志をたぎらせ、黄瀬は窓の外を流れていく景色を眺めた。

「…………」

歩道に海常バスケ部を乗せたバスと並走する人物がいた。

「笠松センパイ」

「あ?何だよ」

「ジェットババアならぬジェット小僧なんて都市伝説あったんスね」

「はぁ?」

急におかしなことを言い出した黄瀬に笠松は怪訝な顔をする。そんな黄瀬はというと、「ちょっと見て下さいッス!」と必死な様子でこちらに振り向くものだから、笠松は渋々窓に向かって席から身を乗り出した。

「今時小学生じゃねぇんだから移動中くらい落ち着けよ」

「いや、マジッスから!……ってあれ?いない……」

「お前試合前から疲れてるとかやめてくれよ」

「いや、確かにこの目で見たんスよ!」

目を指差しながら意味の分からないことを説明する黄瀬に、いっそその目を潰してやろうかと物騒なことを考えた笠松だったが、バスが減速し駐車場に入ったことで別のことへと思考を切り替えた。

「都市伝説もいいけど着いたぞ。他の学校待たせるわけにいかねぇからさっさと降りろ」

おら、と顎をしゃくる笠松に対して黄瀬の叫びがバスに響いた。

「本当に見たんスよぉ!!」

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121224

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