1st game
「セーナー!起きないのー?」
「今日は練習休みぃ」
まどろむ意識のまま、母の呼び掛けに反射で答える。
学校側の都合とはいえ、久々の連休なのだ。トレーニングは昼や夕方からも出来るのだから朝ぐらいはゆっくりしたい。しかし、丁度の温もりを持つ布団を体に巻きつけたまま一つ寝返りをうち、そのまま夢の世界へなんてことはなく、母の声が再び響いた。
「三檀(さたん)体育館に用事があるって昨日言ってたけどそれはもういいのー?」
二度目の呼び掛けで一気に目が冴える。布団をはねのけ、枕元の時計を見ると短針は9と8の間を指し、長針は6の手前であった。
それを目にした途端に体の芯から冷たい感覚が走った。
「もっと早くに起こしてよ!」
「かれこれ三回は起こしたわよー!」
急いで着替え、枕元に準備してあった荷物を抱えて階段を駆け降りてテーブルの上に並べられただし巻き卵とウインナーだけ摘まんで洗面所へ直行する。
家まで迎えに来るであろう親友の携帯番号を歯磨き片手に入力しコールすると、電話に出たのは寝惚けた声と先ほどの自分と同じ文句。
コイツもか!と自分と同様のウッカリに辟易しながらセナは歯磨き粉で泡立つ口で叫んだ。
「相田さん達のお手伝いに遅れちゃうよ!!」
電話の向こうから何かをひっくり返すような盛大な音が響くのを耳にしつつ、リコへ連絡を入れなければならないことを考えると気が重くなった。
事の始まりは三日前のことだ。リコから二日間だけバスケ部のマネージャーをしてくれないかと連絡が来たのだ。聞くには全国クラスの学校のレギュラーが集まる大規模練習であり、少し人手が欲しいという。
セナ自身はNOと言えない日本人気質であるし、誠凛とは個人的にそこそこの付き合いを持っている。おまけに体育館も孟蓮宗の寺から近い。
そのため断り辛く、モン太へ相談をした。あとの流れは「バスケの高校トップが集まる練習とか面白そうじゃねぇか」と、いつか学生証を届けた時とほとんど同じ流れでモン太をお手伝い追加し、栗田に事情を説明して泊めてもらえるようにな、臨時マネージャーを承諾したのであった。
とはいえ、今回は前回の様に私用ではなく臨時ではあるが『誠凛バスケ部』に属する立場だ。遅刻するということは『小早川瀬那』という一個人だけでなく、『誠凛』の印象を悪くすることに繋がってしまう可能性もある。そんなことになれば申し訳が立たない。
「る、留守電!?もしもし!相田さんですか!?僕です!小早川です!僕もモン太も寝坊しちゃったんでギリギリになります!本当にすいません!!」
そして、リコに電話が繋がらないというまさかの事態にパニックになりながら機械音声に向かって捲し立て、セナは玄関を飛び出した。
自転車通学をしていない自分を恨めしく思ったのは久々のことだった。
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121224
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