十話 | ナノ


10th game

 なんだよあれ。誰かが呆然としたように口にする。
 スタートした瞬間の爆発的な加速。それに驚いた時には間もなく火神が抜かれていた。抜かれた火神は動くことなく立ち尽くし、勝負を終えたセナが心配した様子で駆け寄って行く姿が見える。

「スピードMAX! 流石セナだぜ!」

 はしゃいでとセナの元へと走って行くモン太が大きく浮いていた。
 こんなのがフットワーク勝負なのか。ふざけるな、あんな化け物みたいなステップがあってたまるか。リコには部員達の思っていることが手にとるように分かる。そして、作戦が成功したと言わんばかりに火神へ視線を移した。
 実はというと、事前にセナを『視ていた』リコにはこの結果は大体予想していたものであった。それでも、初めてセナの脚をまともに視た時には、そのあまりのデタラメさに度肝が抜かれたが。

「どうだ、アメフトもすげぇだろ? 40yd(ヤード)走……メートルで言やあ36mなんだが、人類の限界って言われてる4秒2で駆け抜けるんだぜ。あんなに小せえ奴がよ。しかも5sの重りを着けてな。ちなみに盗塁王獲ったときのイチローが4秒4な」
「人間じゃねぇ……」

 頭を抱える一年三人組に、青米がニヤリと笑う。

「立派な人間だよ、ありゃ。すげぇ努力の賜物だからな」

 ただの天才として扱うのではなく、今までの道のりを知っているように青米は言って、日向達を見た。そんな中、木吉が口を開く。

「世界は広いなぁ」

 木吉は眩しそうにセナを見つめた。そこには可愛い後輩が負けてしまったことへの悔しさが滲んでいたが、同時に闘志の炎がちらついていた。

 「ボク達も負けていられないですね」

 黒子が続く。ウィンターカップを優勝し、王者の位置に就いた誠凛に驕り(おごり)なんてものはなかったし、今年は連覇を目指して再び挑戦者の気持ちを持ってバスケに挑んで(のぞんで)いた。しかし、それでもまるで燃え尽きてしまったかのような空気がそこにはあったのだ。
 そこへ、偶然であり、競技は違えど最高のプレイヤーの一人として数えられるセナとモン太の登場である。今の誠凛の状況の打開に悩んでいたリコにとって、それを利用しない手はなかった。そして作戦は無事成功した。かくして、泥門デビルバッツのエース達はリコの作戦に全く気付くことなく、誠凛バスケ部への発破がけという見事な大役を成し遂げたのである。

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121224

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