9th game
「おーし、それじゃあ、『アメフトの凄さを知ってもらおう! 一発勝負! 1on1フットワーク対決』を始めるぞー。ルールは簡単、20m先から走ってくる小早川選手を火神がマークしきれたら火神の勝ち。火神が抜かれたら小早川選手の勝ち」
「ちょ、単純すぎねぇ!?」
青米の説明に思わず小金井が口を挟む。それをこれでいいんだよ、青米は流し、話を続ける。
「ただーし、火神には『コレ』を被ってもらう」
じゃん、と青米が嬉しげに取り出したのはアメフトのライン用のヘルメットだった。青米がいつも教官室の自分の机やロッカーの上に飾ってあるものだ。
なぜそんな物が、と疑問の色を隠せない火神やセナ達に今度はリコが答える。
「今回の主旨は『アイシールド21』こと、小早川くんの『光速の走り』をアメフト選手の視点に立って感じてもらうってことだからね。だから正式には勝負っていうより体験ね」
リコの補足にへぇと何人かが納得の声を上げる。火神は渡されたヘルメットの被り方をセナ達に教えてもらいながら装着し、火神、セナともに指定された位置へスタンバイした。
視界が狭い。ヘルメットを被った火神の感想はまずそれだった。20m先には小柄な少年。自分と同学年だというセナは火神や相棒の黒子よりも遥かに小さい。しかし、あのアメフトの高校生トップクラスの選手だというのだ。
絶対抜かせねぇ。火神は気合いを入れた。いくら見た目は小柄であるとはいえ、黒子の様な選手がいる以上、セナだって恐らく何か特別な技術や運動能力を持っているのだろう。小さいからと油断は出来ない。青米のかけ声を合図に走り出した目の前のセナをしっかりと視界に捉え、火神は迎え撃った。
そう、火神は本気で迎え撃ったのだ。そして、セナがスタートしたと同時に『それ』は起こった。
――え?
瞬間移動。開始前には20m先にいた存在は瞬きの間もなく、火神のディフェンススペースへ迫っていた。今までに体験したことのないその速さに背筋が一気に粟立ち、体が震える。『光速の走り』と青米が言っていたのは比喩ではなく、実際に存在した。ゾーンに入った青峰や紫原、何もかもを見透す赤司とも違う純粋で、単純な『速さ』から生み出される恐怖との対峙。予想外の事態に火神は驚くととも、キセキの世代と試合をした時の高揚が体を駆け巡った。抜かせるものかと小さな強敵に集中すれば、アドレナリンが分泌され脳での処理が凄まじくなり、セナの動きがゆっくりに見える。しかし、体が反応しきれない。
これはやべぇな。楽しさと焦りの狭間で火神が他人事の様に考えた瞬間、セナが二人に見えた。そしてまるで煙の様に、違う、『コレ』はそんなものじゃない。そう、実体のない『幽霊』だ。
「Ghost……」
やっと火神が結論に至った時には、彼は既に『デビルバットゴースト』の餌食になっていた。ああ、やられた、と悔しい気持ちの一方で火神の表情はとても輝いているものだった。
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121224
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