7th game
「二人とも大丈夫ですか?」
黒子がセナとモン太に声をかけると、二人はハッとしたように意識を取り戻した。小金井や水戸部、土田といった面々が大丈夫だろうか、といった様子で心配する。そんな中、セナとモン太は二人して青ざめた表情をし、「『とっとと帰って来い糞(ファッキン)チビ』ってマシンガンを撃たれて追い返された」、「俺はバズーカだった」と何やらお互いで確認していた。それを他所にリコは青米の気になる発言に質問をした。
「先生は小早川くん達のことを知っているんですか?」
リコの質問に対し青米は、自分のことでもないのに胸を張り、自慢気に答えた。
「当たり前だ。日本一の高校アメフトチームのエースでしかも二人ともが高校生選手の世界トップクラスのなんだぞ?アメフトをやっていた俺が知らんとかアメフトの神への冒涜だ」
「は?」
空気が固まる。
ちょっと信じられないからもう一回言ってくれというばかりの反応だ。失礼であるが、この自分達よりも遥かに小さな彼らがそれほど凄い人物であるというのは俄かに信じがたい。口にせずともそんな雰囲気が漂う。唯一黒子だけが、いつもの無表情を少し驚きに変化させて、それは凄いですね、と淡々と述べた。また、彼らの内心を何となく感じとったモン太が、エースが小さくて駄目なんてルールはねぇだろ、と憤慨した様子で呟き、セナはというと気恥ずかしいのか顔をうつ向けている。しかし、日向や火神達の反応はある意味仕方がなかった。
正式名称はアメリカンフットボール。日本ではあまりメジャーでないが、アメリカではMLBやNBAを抜いて断トツに人気を博するスポーツである。試合中のCMやユニフォーム、フィールド広告の効果は絶大であり、サポーターも熱狂的な者が多い。ポジションごとが専門職でもあるため、各選手ごとに能力の差異はそれなりにあるものの、やはり活躍するのは運動能力に加えて体格が良く背が高い選手がほとんどだ。なにせ、本来MLBやNBAで活躍できるクラスの選手がNFLに入る、逆にNFLクラスの選手が前者のリーグで活躍する、特殊な例ではMLBといった競技を掛け持ちしたマルチアスリートも存在する。
そのため、選手イメージとしてルールは知らずとも名前を聞いた殆どの人はラガーマンの様な体をした人物を思い浮かべるだろう。しかし、アメフトと聞いてラガーマンがイメージされる時点で日本ではアメフトがマイナースポーツであると言い切っているようなものだ。
特に火神はセナ達の事実を信じられない様子だった。アメリカで暮らしていた間、連日連夜のスポーツニュースや特集では必ず報道を耳にしていたし、シーズン中はスクールのクラス内でどこのチームが優勝するかということで乱闘に発展した場面にも遭遇したことがある。詳しくは知らずともアメフトの激しさや選手層の厚さをそこらにいる日本人よりは知っているからだ。日本一でも感心はするが、世界ともなれば話は違う。
「おーおー、大体分かっちゃいたが信じられねぇって面してるな。何なら体感させてもらうか? アイシールド21の『光速の走り』ってやつを。で、どう? 小早川選手。やってみない?」
「えええぇ!?」
期待を含ませた青米の視線に突然の無茶振りに、無理だろう、同意を求めたアイコンタクトをモン太に送るが、内容にもよると思うけど良いんじゃねぇか、正直舐められっぱなしは俺の性に合わねぇ。と好戦的にアッサリ返された。ここは自分が頑張って断らねば、と焦るセナに更に追い討ちがかけられる。
「面白そうね……。小早川くん、こっちの勝手で本当に悪いんだけど、一度だけでいいからうちの部員の誰かとボールなしで1on1やってもらえない?」
丁寧な物言いとは裏腹に、リコの目はセナ達に気付いた際の青米にも負けないほどにそれはもう、素晴らしく輝いていた。御愁傷様、とセナを憐れむ日向の声と詰んだ、とどこかで諦めた自分の心の声が聴こえる。しかしそれでもセナは粘る。
「でも僕私服ですし……」
「予備の練習着持ってきている人1」
「俺、上下とも持って来てます」
答えたのは降旗だ。まだ諦めるな、と自身を応援する。
「う、運動靴もないですし……」
「教官室に一通りのサイズのインシューズはあるぞー」
今度は青米。心が折れそうになる。まだ、まだ希望はある筈だ。
「もし、こんなのでお互い怪我でもしたら大変ですし!」
「そこんところはあたしが視て何としてでも防ぐから大丈夫よ!」
とうとうリコにガッチリと腕を掴まれ、セナは部室の方へ引き摺られ始めた。モン太は行ってこい、と手を振り完全に他人事だ。いや、あの様子は自分が勝負に選ばれたかったという落胆もある。
この薄情者め、僕の親友なんだろ! 助けろよ!
そんな心の叫びは誰にも聞かれることなく、セナは部室へと放り込まれた。部室で途方に暮れていると服を貸すために後から来た降旗に散々謝られ、彼らもリコに振り回され苦労をしているのだな、と何となくセナは悟った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
121224
← back →